特集ドラマ「手塚治虫の戦争」2026-08-15

2026年8月15日 當山日出夫

特集ドラマ「手塚治虫の戦争」

いったいいつごろから、手塚治虫は、漫画の神様、ということになったのだろうか。手塚治虫をめぐる言説史、戦後の漫画の歴史という観点から考えるべきことがあるだろう。

私の世代だと、「鉄腕アトム」は、リアルタイムで、漫画も読んだし、テレビのアニメも見ている。だが、同時に、漫画は俗悪、低劣な読み物で、良識的な子どもの教育からは忌避されてきたということがある。有害図書であった。実際に、街には、白ポストがあり、今の価値観からするなら、表現規制、言論の自由の弾圧、焚書、禁書、といわれるようなことが、公然と行われてきた。「鉄腕アトム」も残虐だと批難されたことがある。こういう歴史の経緯を無視して、漫画の神様が戦争を描いた、ということで、ことさら手塚治虫を持ち上げてドラマを作るのは、どうなのだろうか、と思うのが、私のまず思うところである。

戦後における、戦争漫画の歴史という背景を無視するのもどうかと思う。私の家の本棚には、文庫本だが、『紫電改のタカ』(ちばてつや)、『二世部隊物語』(望月三起也)などが置いてある。Kindle版になるが、『サブマリン707』もある。私が小学生のころ、少年漫画雑誌は、戦争漫画がたくさんあったし、軍事情報も多く掲載されていた。戦艦大和のイラスト解説など、ごく普通にあったことである。その多くは、今の価値観からは、否定的に見ることになるかもしれないが、しかし、こういう時代の背景があったということは、少なくとも記録には残すべきことである。

そして、こういう背景があって、手塚治虫が戦争をどう描くことになったのかが、理解されることになる。

それから、戦争と漫画ということでは、田河水泡のことを忘れることはできないはずである。だが、これも、今ではきちんと描こうとすると、かなりややこしいことになるかなとは思うが。

だが、ドラマとしては、よく出来ている。

特に、戦時中の勤労動員の学生の描写。学校でのタテマエ、これは、いかにも軍国主義なのだが、実際には、教師などの目を盗んで、学生どうしで楽しむところもあり、息抜きをすることもあり、(鉄郎のように)昆虫に興味を持つこともあり……戦争の時代だからといって、誰もが、四六時中、戦争のことばかり思っていたわけではない。実際の生活としては、(このドラマでは描かなかったが)食料のこともあったはずだし、残っている証言などでは、飛来するB29を見て美しいと感じるところもあった。人の生活の中での感じ方は、さまざまである。

男子学生どうしが仲よくするというあたりのことは、仲間意識、友情として、描く範囲になっているが、これも、描きようによっては、特に性的なことがらについては、現代ではかなり難しい部分もあることになるかもしれない。

女学生の京子(野内まる)がとても良かった。

現代(その当時の)の部分で、手塚治虫と編集者が話をするシーン。実際のキャバレーを使ったものだろう。どの店か、分かる人にはすぐ分かることだと思うが。

私は、手塚治虫の本人を一度だけ目にしたことがある。1980年ごろになるだろうか。東京で日本橋の丸善に行ったとき、イベントとして、手塚治虫のサイン会があった。たしか、アメリカ人だったと思うが、外国の人の書いた手塚治虫の研究書の発売に合わせてである。もちろん、英語の本である。その本を買うと(たしか、5000円ぐらいだったと記憶する、買って買えない値段ではなかったが)、手塚治虫が何か絵を描いてくれてサインしてくれる。よっぽどどうしようかと迷ったのだが、結局、本を買わず、サインももらわずに、店を後にした。もし、絵を描いてもらえるのだったら、私だったら、サファイアをお願いしたいと思ったのを憶えている。見ていると、アトムの絵を希望する人が多かったのだが。

そのころは、「ブラックジャック」のころだっただろうか。私の印象としては、手塚治虫の評価は、日本でよりも、海外の方が先行していたのではないかと思える。このあたりのことは、現代では、専門の漫画史研究の分野のことになる。

2026年8月13日記

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