『誰もいない夜に咲く』桜木紫乃2017-02-22

2017-02-22 當山日出夫

桜木紫乃.『誰もいない夜に咲く』(角川文庫).角川書店.2013 (『恋肌』.角川書店.2009 改題、改稿)
http://www.kadokawa.co.jp/product/321206000249/

桜木紫乃の北海道を舞台にした短編小説集。この本、最初『恋肌』のタイトルで、単行本で出ていたものに、文庫化にあたり、「風の女」を追加して、改題、改稿したもの。

この短編集で気にいったのは、「絹日和」。着物の着付けの職人が主人公。その自分の職業にかけた意地、あるいは、プライドといった方がよいか、のようなものが、見事に描かれている。

桜木紫乃の作品、特に、短編に出てくる女性は、どの作品でも、決して幸福とはいいがたい。何かしら、人生の影のようなものを背負っている。にもかかわらず、自分のおかれた境遇のなかで懸命に生きようとしている。

そのせいだろうか、「絹日和」のような、職人を主人公とした作品に、自分ひとりで生きていくことの、つらさ、せつなさ、しかし、その一方での矜恃とでもいうべきもの、それが、ひしひしと伝わってくる。

また、これまで読んできた桜木紫乃の作品のように、北海道の風土の描写と切り離すことはできない。この短編集においても、描かれている北海道は、決して明るくない。そして、象徴的なのは、やはり、空の色と、海の色。

付箋をつけた箇所、

「健次郎の肩ごしに、青色の絵の具で塗りつぶした空がある。」(p.59)

「アーケード商店街を抜けて少し走ると、青よりは黒に近い色の海原が見えてきた。」(p.145)

文庫本の解説を書いているのは、川本三郎。この作品においても、時代と、土地、風土、というべきものを読み解いている。21世紀になって、不景気と過疎とともに生きていかなければならない、北海道の人びとの生活のありさまが、この短編集のどの作品からも読み取れる。

おそらく、北海道という土地にこだわって書いてある小説であるが故に、そこに生きる人びとを通じて、この作品は、ある種の普遍性を獲得しているといってよいだろうか。決して幸福とはいえない人生のなかにあって、あくまでも自己にしたがって生きようとする人間の生活が、この小説から読み取れる。

文学が、ある時代とともにあるものであるとするならば、この作品は、現代という時代、そのあり方の一部かもしれないが、確実にその一部を描ききっている、そのような作品として存在するといってよいであろう。

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