『倫敦塔・幻影の盾』夏目漱石2019-11-09

2019-11-09 當山日出夫(とうやまひでお)

倫敦塔・幻影の盾

夏目漱石.『倫敦塔・幻影の盾』(新潮文庫).新潮社.1952(2008.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/book/101002/

続きである。
やまもも書斎記 2019年11月7日
『坊っちゃん』夏目漱石
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/11/07/9173811

この新潮文庫の『倫敦塔・幻影の盾』には、次の作品が収録されている。

「倫敦塔」
「カーライル博物館」
「幻影の盾」
「琴のそら音」
「一夜」
「薤露行」
「趣味の遺伝」

いずれも、漱石の初期の作品である。まだ、朝日新聞に入って専業作家になるまでのものである。

やはり読んで印象に残るのは、「倫敦塔」であろうか。この作品には、「死」のイメージがある。しかも、川をわたって、かつ、門をくぐって、倫敦塔の中にはいっていく。異世界への旅のごとくである。極論すればであるが、漱石にとって、ロンドンでの倫敦塔の訪問は、文学的な「擬死体験」であったのかもしれない。

また、「幻影の盾」がいいと感じる。ただ、はっきり言って何がどう書いてあるかよくわからない作品である(一読しただけでは)。だが、その文章のリズムが、実にここちよい。読んでいて、思わずに文章のなかにひたってしまっている自分に気付く。漱石は、ヨーロッパに題材をもとめながらも、その文章は、漢文調の美文である。たぶん、漱石は、読んでいてここちよくなるような、このような文章を書きたくて、この作品を書いたのかと思うところがある。漱石の文章は、目で読む文章ではあるが、耳できいてここちよい感じがある。

その他の作品を読んで感じるところは、初期の漱石の持っているロマンチシズムとでもいうべきものかと思う。ともあれ、初期の漱石が、大学の教師の仕事をしながら、このような文学の世界に遊んでいたことは確かなことである。

初期の漱石の文学の多様性を感じることのできる一冊になっていると思う。

次の漱石は、『文鳥・夢十夜』である。

追記 2019-11-14
この続きは、
やまもも書斎記 2019年11月14日
『文鳥・夢十夜』夏目漱石
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/11/14/9176708