『ウクライナ戦争の200日』小泉悠/文春新書2022-10-08

2022年10月8日 當山日出夫

ウクライナ戦争の200日

小泉悠.『ウクライナ戦争の200日』(文春新書).文藝春秋.2022
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166613786

最近の小泉悠の対談を編集したものである。対談の相手は次のとおり。

東浩紀
砂川文次
高橋杉雄
片渕須直
ヤマザキマリ
マライ・メントライン
安田峰俊

いろいろと考えるところの多い本である。幸いなことにと言っていいのだろうが、日本にいて、今の段階では、そう大きくウクライナの戦争の影響があるということはない。ただ、物価上昇という日常生活にかかわることはあるが、まあなんとかしのげる程度である。

ウクライナの戦争をめぐっては、様々なひとば様々な意見を述べている。テレビをつけても、新聞を見ても、多様な言説がとびかっている。そのなかで、この人の言うことは信頼していいだろうと思える一人が、小泉悠であることは確かである。少なくとも、私はそう思っている。

それは、一つには、軍事の専門家としての専門知識であり、そして、それゆえの謙虚さに由来する。ただ、ウクライナのことは、軍事や国際政治、あるいは、経済の問題など、いろんな論点がからんでくるので、確かにややこしい。そのなかで、この分野について、この視点からは、このように言えるというラインを明確に意識している論者であると思っている。(まあ、テレビをつければ、専門的知識のないコメンテーターの放言が、ひどいレベルであると言ってしまえばそれまでであるが。)

読んで興味深い、教えられるところ、考えるところが多くある本であるが、私が読んで興味深かったのは、片渕素直との対談。『この世界の片隅に』について、語っている。この対談を読んで思ったことは、あの映画、あるいは、原作の漫画は、戦争の時代の日常を描いた作品であると同時、戦争映画、戦争漫画なのだな、ということである。戦争と日常とが、同じディテールの細かさで連続して描かれている。なるほど、あの作品の魅力は、このようなところにあったのか、と再確認したようなところがある。

時事的な話題の本であるが、二〇二二年の秋のころまでに、どんな状況でどんなことを考えていたのか、確認する意味で、読んでおいて、そして、側においておいて損のない本だと思う。

2022年9月29日記