ARG305 ― 2008-01-18
2008/01/18 當山日出夫
ARG(ACADEMIC RESOURCE GUIDE)について、書く。つまり、メールマガジン『ARG』についての、個人的な書評(あるいは感想文)である。書評(あるいは感想文)が、紙の本だけに対するものである、という認識を、超えたいのである。
最新のものは305号(2008-01-15)。
もっとも興味深いのは、なんといっても、巻頭の、
田中浩朗さん、サイト「帝国日本の科学技術動員体制」を公開
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080106/1199622811
http://ohst.jp/douin/2008/01/post_2.html
である。
個人の研究者が、その研究のプロセスそのものを、公開していくこと、これは画期的である、と思う。学術の世界は、結果で勝負である、これは言うまでもない。(もっと露骨に言ってしまえば、業績にする、ということである。)
これまで、その研究のプロセスは、特に人文学研究では、「公開する」という性質のものではなかった。資料の集め方とか、その整理の仕方、などは、研究者から学生へ、個人的に伝授する、というものであった。あるいは、弟子は、その師匠の方法を「盗む」もの、とされてきた。たとえていえば、芸能の世界における、内弟子、に相当すると考えればよいかもしれない。
このあたりの私の考え方については、『漢字文献情報処理研究』の第7号に書いておいた。
だからこそ、研究の方法論について、そのノウハウを記した『知的生産の技術』(梅棹忠夫、岩波新書)や、『発想法』(川喜多二郎、中公新書)が、売れたということになるのだと、思う。前者は、いわゆる「京大型カード」が一世を風靡することになり、後者はKJ法の名で知られている。初期のパソコンの時代、「京大型カード」「KJ法」は、いくつかのソフトウェアの、モデルとされた。
しかし、今、カード形式で表示のデータベースソフト、などは、ほとんど世の中から姿を消してしまっている。「ハイバーテキスト」がそれにとって変わったということなのかもしれないが、文書やデータの「構造」についての考察が深まったということではなさそうである。
一方で、大学生を対象として、「勉強の仕方」のノウハウ本、というか、教科書が、売られるようになった。講義のノートの取り方、などについて、説明した、大学でつかう教科書、である。その先駆的なものは、『知の技法』(東大)かもしれないが、最近のものは、こんなことのレベルまで教える必要があるのだろうか、と感じるまでに下がっている。
田中浩朗さんのサイトを、紹介された時点で見る限りであるが、これは、若手の研究者にとって、非常に有益であると思う。特に、大学院生で、研究の具体的な手順(資料の収集や整理)について悩んでいる人には、参考になるにちがいない。
自分の研究の手のうちをあかす、ということは、非常に決断を要することである。田中浩朗さんの英断に敬意を表したい。
當山日出夫(とうやまひでお)
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