細谷雄一『安保論争』違憲か合憲か2016-07-15

2016-07-15 當山日出夫

昨日のつづきである。

やまもも書斎記 2016年7月14日
細谷雄一『安保論争』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/07/14/8131019

安保論争の前提として、次のことがまず重要だろう。安保法制が合憲か違憲かの前に、自衛隊そのものが合憲か違憲か、問われねばならない。

この本の「まえがき」にはつぎのようにある。

「すなわち、憲法学者の多数は、このアンケート調査(朝日新聞によるもの、引用者)によれば、自衛隊を「違憲」とみなしながら、その違憲状態が続くような状況を変える必要がないと考えているのである。立憲主義の観点からすれば、違憲状態を放置することを憲法学者の多数が好ましいと考えることを、どのように理解すればよいのか。自衛隊を違憲ととらえながらも、憲法改正の必要がないと説くことは、違憲状態を許容することを意味し、立憲主義にとっての脅威になるのではないか。論理的に考えれば、自衛隊を合憲とみなすのであれば憲法九条の改正は必要ないであろうし、自衛隊を違憲とみなすのであれば憲法九条を改正するか、あるいは自衛隊を廃止するかいずれかの主張をするべきであろう。」(pp.14-15)

そのうえで、さらにこうのべる。

「憲法学者の多くが、今回の安倍政権による憲法解釈の変更を立憲主義の否定ととらえている。しかしながら、彼らの大半は、政府が憲法解釈を変更すること自体には、反対していない。それでは、どのような場合に憲法解釈の変更が「立憲主義の否定」になるのか。あるいは、メディアの過去二〇年間における、自衛隊のPKO参加に対する立場の変化、そしてかつては自衛隊違憲論が大勢であったのに、個別的自衛権の行使を合憲とみなし、自衛隊の廃止を主張しない姿勢。これをどのように考えればいいのか。」(p.15)

私の考えでは、このあたりがもっとも妥当なところかと思われる。率直な疑問である。自衛隊が違憲であるというならば、その廃止を主張すべきだし、合憲というのならば、むしろすすんでその存在を認めるように憲法を改正すべきといわねばならないだろう。すくなくとも、その改正案に反対すべき理由はないことになる。

このようなことはすでに、言われていることである。しかし、まず、このことを確認しておかないと、安保法制の合憲/違憲をめぐる議論が整理がつかない。

私は、いわゆるアカデミズムの立場にいるので、「憲法学者」という立場の人間が、こぞって「違憲」であるというのならば、それにしたがいたい気でいる。しかし、何か、それをためらわせるものがあるのは、「憲法学者」の意見に、どこか違和感を感じるところがあるせいなのだろうと思っている。

このようなことは、「憲法学者」の世界では、論ずるまでもないことであるのかもしれない。しかし、そうではない一般の人間には、まず、このあたりの論理からしてわかりずらいと感じさせる。

しかし、そうはいっても、世の中の「憲法学者」のほとんどが否定的であるというのは、かなり重みをもって受け止めねばならならないことであるとも、思っている。(要するに、よくわからない、というのが正直なところではあるが。)

そして、この本『安保論争』は、基本的に、安保法制合憲の立場で書かれている。しかし、この論点(合憲か違憲か)にかんしていえば、私が読んだ印象としては、それほど説得力あるものとは読めなかった。まず、素朴な疑問としての問題提起はよい。だが、それをすすめて、安保法制が合憲であると積極的に主張するには、論じ方が弱いように感じた。

この本は、日本の国際的な安全保障について、きちんと向き合って書かれている本だけに、もうひとつ丁寧な説明がもとめられるのではないだろうか。たとえ、それが、国内世論向けの議論であったにせよ、である。

ところで、自衛隊の違憲/合憲をめぐる議論については、

井上達夫.『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』.毎日新聞出版.2015
http://mainichibooks.com/books/humanities/post-68.html

あたりが、ある種の知的ラディカリズムを感じさせる。この本については、また、改めてと思っている。

追記 2016-07-18
安保法案反対が、ナショナリズムであるという視点については、
やまもも書斎記 2016年7月18日
萱野稔人『成長なき時代のナショナリズム』「ナショナリズムの新局面」
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/07/18/8133657

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