『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』2016-07-20

2016-07-20 當山日出夫

井上達夫.『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください-井上達夫の法哲学入門-』.毎日新聞出版.2015
http://mainichibooks.com/books/humanities/post-68.html

なんとも長いタイトルの本であるが……売れているらしい。私のもっている本の帯には、「東京大学生協のベストセラー 3ヵ月連続 人文1位」と書いてある。

読んでみての感想であるが、知的にラディカルに考えるひとつの典型かな、という印象である。それが、実際の社会に対してどのように影響力があるかどうかは、また別の問題としてであるが。

そのような箇所のひとつ。日本と東アジアとの戦争責任の問題について、論じたところを見てみたい。まずアメリカの例をあげる、

「アメリカは、自分が侵略した他国(ベトナム、引用者)に対し、謝罪なんかしませんよ。それどころか、ベトナム戦争後、統一ベトナムに対し、南ベトナム政府に貸したカネを返せなんて要求しているくらいですからね。」(p.34)

「そんなアメリカにくらべればもちろん、国際的に見ても、アジア女性基金のように、法的責任について争いがあり、決着できないときに道義的責任としてではあれ、戦争責任問題にここまで踏み込んで、〈他国民〉に賠償・謝罪した例はないはずです。日本としてはそれを誇るべきなんですね。」(p.34)〈 〉内は、原文傍点。

そして、つぎのように方向をしめす。日本とドイツの比較である。

「過度の自己否定は間違っている。同時に、過度の自己肯定も間違っている。」(p.35)

「ドイツは、自分たちの戦争責任の追求を、日本よりもずっと立派におこなった、という「神話」がある。」(p.35)

「ドイツは、自分たちの戦争責任というのを、二重の意味で限定している。」(p.35)

「まず、責任の主体は、ドイツ国民ではなく、ナチです。ナチの犯罪だと、と。ドイツ国民はむしろ、ナチの犠牲者だ、みたいなね。」(p.35)

「そして、責任の対象は、ドイツがやった侵略戦争の相手じゃなくて、ユダヤ人です。ユダヤ人に対しておこなった強制収容と集団虐殺、それに限定されているんです。」(p.35)

また、

「勝者の裁きであるニュルンベルク裁判の受忍を超えて、自発的に戦争責任を認めてきたわけではない。」(p.36)

これは、確かに、法の理論としてはそうなのかもしれないが、実際の日韓関係などに、適用できることなのだろうか。

ここで、二つの論点をあげてみたい。日本の戦争責任のとりかたと、日韓関係についてである。

第一には、国内の問題として。ポツダム宣言受諾・東京裁判・サンフランシスコ講和条約、といった一連の法的手続きを経た後において、日本は、どれだけの責任をみとめるべきかということ。現在、これらの経緯の上に現代日本がある、ということになっている。これに対して、それを否定しようとする発想がある。いわゆる東京裁判否定論である。これをどう考えるか。では、これに対してどう向き合うべきか、ということである。

第二には、国外の問題として。はたしてそもそも韓国はゆるす気があるのか、という問題。先般の従軍慰安婦問題のときにも、またゴールポストを動かすのではないか、という懸念があった。これは、日本側からいうべきことではないのかもしれないが、しかし、あくまでも被害者の立場に拘泥して、道義的優位をたもちつづけようとする態度も、また、批判されるべきではないか。

以上の二つの論点が、日韓関係において問題になるかもしれない。実際の国際政治・外交の場面において、知的にラディカルに考えることは重要かもしれないが、それだけでは、解決のつかない、いわば民族の情念にかかわる問題があるように思っている。これは、ただ、知性にもとづいた対話があれば解決するという性質のものではない。

だから、ラディカルに考えても無駄ということではない。いや、それは必要である。しかし、一方、その限界もあるだろうとは思っている。

この問題、また、さらにつづけて考えていきたい。

このつづきは、
井上達夫「戦争の正義」
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/07/22/8135835

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