『明治波濤歌』(上)山田風太郎2021-05-06

2021-05-06 當山日出夫(とうやまひでお)

明治波濤歌(上)

山田風太郎.『明治波濤歌』(ちくま文庫 山田風太郎明治小説全集9).筑摩書房.1997(新潮社.1981)
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480033499/

続きである。
やまもも書斎記 2021年5月1日
『エドの舞踏会』山田風太郎
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/05/01/9372763

これは、最初、新潮社版が出た時に買って読んだのを覚えている。このころになると、山田風太郎の明治小説は、新刊が出るごとに単行本で買って読んでいた。

ちくま文庫版の上巻には、次の作品をおさめる。

それからの咸臨丸
風の中の蝶
からゆき草紙

連作短篇というのではなく、各作品が独立している。時代設定も、明治のはじめから前半期ではあるが、特に時代を決めてということもないようだ。

この巻も、さまざまに明治の著名人が出てくる。それがどのように登場するのかという点の楽しみもあるが、しかし、やはり、これらの作品に通底している、明治の時代の流れからとりのこされた、あるいは、少なくとも時流にのることができなかった、幾多の人びと……ここにそそがれるまなざしを強く感じる。明治という激動期であるからこそ、その時代に適応できなかった、多くの人びとがいたことを忘れてはならないのだろう。

無論、小説として読んで面白い。再読になるのだが、最初に読んだのは若いときだったので、すっかり忘れてしまっている。新たな気持ちで、各作品を読むことになった。

興味深いのは、「からゆき草紙」。これは、ミステリ仕立てになっている。雪のなかの密室殺人、という趣向である。それが、この物語のストーリーのなかに融合して、たくみな謎解きになっている。

明治というと、どうしても、歴史の教科書に名前の出てくるような著名人の活躍に目がいく。だが、その影に、歴史に埋もれてしまった、時代の流れに乗ることのできなかった人びとがいる。そのような人びとこそ、歴史のなかで翻弄されたといっていいのだろう。

このような作品を読んで、また、ふと樋口一葉の作品など読み返してみたくなった。樋口一葉もまた明治の時代の流れのなかで、時代に翻弄されながらも、かろうじて一時の光芒をはなつことができた、あるいは、希有なひとかもしれない。

2021年5月2日記

追記 2021-05-13
この続きは、
やまもも書斎記 2021年5月13日
『明治波濤歌』(下)山田風太郎
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/05/13/9377026

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