『最果てアーケード』小川洋子2021-10-21

2021-10-21 當山日出夫(とうやまひでお)

最果てアーケード

小川洋子.『最果てアーケード』(講談社文庫).講談社.2015(講談社.2012)
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000212073

続きである。
やまもも書斎記 2021年10月14日
『いつも彼らはどこかに』小川洋子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/10/14/9431966

連作短篇集である。

収録するのは次の作品。

衣装係さん
百科事典少女
兎夫人
輪っか屋
紙店シスター
ノブさん
勲章店の未亡人
遺髪レース
人さらいの時計
フォークダンス発表会

舞台となるのは、どこにあるともしれない、小さなアーケードの商店街。そこで一人の少女を主人公として、各店での出来事がつづられる。どの店もちょっと変わっている。繁盛しているという店はあまりないようだが、いつかどこからかあらわれる客を待って、店をやっている。

アーケードについて作者はこう記す……「もしかするとアーケードというよりも、誰にも気づかれないまま、何かの拍子にできた世界の窪み、と表現した方がいいのかもしれない。」(p.10)

その「世界の窪み」にある店も、おとずれる客も、ちょっと変わっている。

だが、奇怪という感じではない。ちょっと変わってはいるが、どこにでもありそうな、どこにでもいそうな店であり、人びとのいとなみである。それらが、小川洋子の独特の透明感のある文章で、語られる。読んでいる間、このちょっと変わったアーケードの人びとにつきあうことになる。その時間が、この短篇集を読む楽しみというべきなのであろう。

2021年6月11日記

追記 2021年10月25日
この続きは、
やまもも書斎記 2021年10月25日
『沈黙博物館』小川洋子
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/10/25/9434850