『沈黙博物館』小川洋子2021-10-25

2021-10-25 當山日出夫(とうやまひでお)

沈黙博物館

小川洋子.『沈黙博物館』(ちくま文庫).筑摩書房.2004 (筑摩書房.2000)
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480039637/

続きである。
やまもも書斎記 2021年10月21日
『最果てアーケード』小川洋子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/10/21/9433750

駅におりたった一人の青年。博物館技師である。仕事をすることになったのは、ある老婆の依頼。それは、死者の形見を陳列する博物館を作ることだった。老婆の屋敷で、博物館をつくるために、仕事をはじめる。それを手助けすることになる少女。不思議な修道院。謎の連続殺人事件。切り取られた乳首。

謎めいたお膳立てで物語は進行するのだが、これは、小川洋子の小説の世界である。ちょっと変わった……いや、おおいに変わっているというべきかもしれないが……人びとのおりなす、なんとも奇妙なストーリー。そんなに波瀾万丈の大活劇という小説ではないのだが……この小説では、いくつかの事件は確かにおこるのだが……淡々と物語はすすむ。博物館の意図、企画からはじまって、コレクションの収集、保存、展示、解説、と、博物館業務にしたがって、物語は展開することになる。

この物語の終結におこるできごとは、概ね予想できることではある。その終結にむかって、登場人物たちは、語り、行動する。だが、その語り口は、あくまでも静かで、落ち着いている。大声をあげて叫ぶというものではない。

小川洋子の透明な物語世界が展開することになる。

あるいは、この小説の主題というべきは、博物館かもしれない。もう使われなくなったもの、過去の遺物、だが、それを見るひとには価値のあるもの、それらをコレクションし、保存し、展示する、この一連のプロセスを、この小説は描いている。ただ、この小説の場合、コレクションの対象が、死者の形見というちょっと変わったものではある。しかし、博物館としての本質は、このようなコレクションを設定することによって、より鮮明になるのかもしれない。

類い希なる「博物館小説」といってもいいだろう。

2021年6月18日記

追記 2021年10月30日
この続きは、
やまもも書斎記 2021年10月30日
『不時着する流星たち』小川洋子
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/10/30/9436104