『豊饒の海』第二巻『奔馬』三島由紀夫(その二)2017-03-25

2017-03-25 當山日出夫

つづきである。
やまもも書斎記 2017年3月24日
『豊饒の海』第二巻『奔馬』三島由紀夫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/03/24/8418304

この小説を、40年ぶりに再読してみて、思ったことをいささか。

主人公の名前が「勲」であること。これは、再読するまで忘れていた。この「勲」という名前、他で見ておぼえていた。『きんぴか』(浅田次郎)の「軍曹」の名前である。

私は、浅田次郎の作品は、たぶん、出たもののかなりを読んできているとは思っている。そのなかで、一番好きなのは、その処女作である『きんぴか』である。そのつぎぐらいの『プリンズンホテル』のシリーズもいい。『天切り松』のシリーズもいい。『壬生義士伝』もいい。しかし、私が一番すきなのは『きんぴか』なのである。この作品のなかに、その後の浅田次郎の各種の作品に展開していく、いろんな要素がつまっていると思う。

で、この『きんぴか』で「軍曹」の名前に、「勲」をつかっている……これは、明らかに、三島由紀夫の『奔馬』を意識してのことである。

また、『きんぴか』の最初の方で、「軍曹」が拳銃で自決をはかろうとする場面があるが、この一連の動きも、明らかに、三島の事件をうけて書いている。

ほかにも、浅田次郎の作品では、エッセイ集『勇気凜々ルリの色』で、三島由紀夫にかなり言及していたかと記憶している。(今では、本を、しまいこんでしまったので、確認できないのだが。)

おそらく、『きんぴか』を書いた当時の浅田次郎は、ほとんどまだ無名の作家。だからこそ、あからさまに三島事件をふまえたことがわかる小説を書けたのだと思う。

とにかく、浅田次郎……現在は、日本ペンクラブの会長である……の作品が、三島由紀夫の影響を、なにがしかの形でうけている、それが、本人が望んだものであるかいなかは別にして……このことは確かなことだろうと思う。

浅田次郎が、現代日本の小説を代表する一人であることは、一般に認められることであろう。その浅田次郎作品を、読み解いていくうえにおいて、三島由紀夫と、その最後の事件は、影をおとしている。影響をあたえている。

1970年、昭和45年の秋。三島の事件は、現代文学にまで、その影響を及ぼしていることなのである。

追記 2017-03-29
この続きは、
やまもも書斎記 2017年3月29日
『豊饒の海』第二巻『奔馬』三島由紀夫(その三)
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/03/29/8424864