『草枕』夏目漱石2019-07-19

2019-07-19 當山日出夫(とうやまひでお)

草枕

夏目漱石.『草枕』(新潮文庫).新潮社.1950(2005.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/book/101009/

『草枕』を再読してみたくなって、手にしてみた。読んだのは新潮文庫版である。漱石は、岩波版の「全集」も二セット持っている。が、ここは気楽に手にできる本で読んでみようと思って、新潮文庫で読むことにした。

『草枕』は明治三九年の作である。小説家としての漱石としては初期の作品になる。

これまで、『草枕』は何度か読み返している。最初に読んだのは、中学生のときだったか、高校生のときだったか、何かの文庫本で読んだ。そして、高校生になったときに、岩波の「全集」が出たので、それでも読んだ。その後、折りにふれて読んではきたと思う。

しかし、今一つ、漱石の作品のなかでは好きになれないで今まできた。どこかしらペダンティックな感じがして、とりつきにくいところを感じていた。

が、自分自身も、もう漱石の没年をはるかにすぎてしまって、さらに漱石の作品を読み直してみたくなっている。『三四郎』以降の作品については、おおむね数年おきに、だいたい順番に読んで来ているのだが、それ以外の作品をきちんと読み直してみたくなってきている。

そのきっかけになっているのが、半藤一利と宮崎駿の『腰ぬけ愛国談義』である。

やまもも書斎記 2019年7月15日
半藤一利・宮崎駿『腰ぬけ愛国談義』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/07/15/9128716

この本の冒頭で、対談の両者が、漱石の作品のなかで何が一番好きかとして、ともに『草枕』をあげていた。それなら、これをきっかけとして、読んで見るかと思った次第である。

読んで感じることはいくつかあるが、二点ばかりあげておく。

第一には、晩年の漱石が『明暗』を書きながら、漢詩の世界に遊んでいたことは知られていることである。その漢詩、また、俳句の世界が、『草枕』にはある。漱石は、作家生活が一〇年ほどしかない。最晩年の『明暗』執筆のころと、『草枕』を書いたころと、そう大きな変化があったことはないのかもしれない。

無論、漱石という作家は、一作ごとに新しいテーマにチャレンジしていく作家であったし、その作家生活の途中には、いわゆる修善寺の大患がある。だが、そうはいっても、『草枕』の世界のなかに、『明暗』の漱石があこがれていた文人的境地とでもいうべきものを、見出すとしてもあながちまちがった解釈ではないだろう。

実際、私が、今回、『草枕』を久しぶりに読んでみて感じたことの第一は、むしろその背景にあると感じ取れる『明暗』の世界であった、このようにいうこともできるだろう。

第二には、登場人物のなかで、女性の那美さんがつかっていることばが、女学生言葉ではないことに気がついた。漱石の小説の登場人物、その女性のことばは、多くの場合、女学生言葉である。『三四郎』の美禰子、『それから』の三千代、『こころ』の奥さん、など。

これも、最晩年の『明暗』になると、妻のお延のことばが変わってきているように感じる。いや、そうではなく、小説中の人物造形が変わってきたといった方がいいだろうか。また、気になるのは、清子のことばなのだが、本格的に登場するまえに、この小説は未完で終わってしまった。

このような意味において……漱石に作品中の女性をどのように描くかという視点から見て……『草枕』の那美さんが、女学生言葉をつかってはいないということが、非常に興味深いことのように思われてくる。

以上の二点が、何年かぶりに『草枕』を読み返してみて思ったことなどである。

読んだあとで、私のKindleに、岩波文庫版『草枕』を買ってダウンロードしていれておいた。外出するときは、Kindleを持って出る。出先で、ちょっとした時間に読むのにいいと思ってである。(『草枕』は、他の版でもKindleに入れて持っているのだが、ルビの処理などで、いささか不満がある。ここで岩波文庫版を買っておくことにした。)

他の漱石の作品も、さらに再々読しておきたい。これまで、岩波版「全集」か、岩波文庫で読んできたのだが、新潮文庫の校訂で読んでみるのもいいかという気がしてきている。さしあたって、村上春樹の関連を読んでいるのだが、そのかたわらに、順番に漱石の作品の再々読も考えてみたい。それから、堀辰雄も読んでおきたい。

次には、『明暗』を読んで(何度目になるだろうか)みたくなっている。

追記 2019-07-25
この続きは、
やまもも書斎記 2019年7月25日
『明暗』夏目漱石
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/07/25/9133086

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