『教科書名短篇-少年時代-』中公文庫2020-03-14

2020-03-14 當山日出夫(とうやまひでお)

教科書名短篇-少年時代-

中央公論新社(編).『教科書名短篇-少年時代-』(中公文庫).中央公論新社.2016
http://www.chuko.co.jp/bunko/2016/04/206247.html

続きである。
やまもも書斎記 2020年3月13日
『教科書名短篇-人間の情景-』中公文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/03/13/9223694

先に読んだ本と姉妹編ということになる。収めてあるのは次の作品。

少年の日の思い出 ヘルマン・ヘッセ/高橋健二訳
胡桃割り 永井龍男
晩夏 井上靖
子どもたち 長谷川四郎
サアカスの馬 安岡章太郎
童謡 吉行淳之介
神馬 竹西寛子
夏の葬列 山川方夫
盆土産 三浦哲郎
幼年時代 柏原兵三
あこがれ 阿部昭
故郷 魯迅/竹内好訳

読んでみて思うことは、次の二点になるだろうか。

第一には、中学の教科書にこれほど文学的な作品が収録されているのかという驚きのようなものである。どの作品も、申し分ない。文学的にすぐれている。おそらく、アンソロジー全体としての文学的な良さとしては、先に読んだ『教科書名短篇-人間の情景-』よりも、すぐれている。そして、これを読むと、少年のとき、子どものときのことを描くというのが、日本の近代文学のなかで、一つの流れとしてあったことが実感される。

第二には、日本文学、特に近代小説における子どもの描き方である。子どもの世界のことを描く、その感性のみずみずしさというところに、主眼がある。これはこれとして、一つの文学のあり方なのであろう。さて、このような傾向の文学……少年文学とでもいおうか……が、世界の他の国の文学においてどうであるのか、私は知り得ない。しかし、このようなアンソロジーとして示されると、確かにこれは、一つの日本文学のあり方であると感じる。

以上の二点が、読んで思ったことなどである。

おそらく、このようなアンソロジーがなければ、知らずにすんでしまった作品がほとんどである。

ただ、ここに収録の作品のうち、「故郷」(魯迅)は、憶えている。これは確か教科書で読んだだろうか。この作品だけは、ちょっと他の作品……主に日本の近代小説……とは、趣が違う。魯迅についても、読みなおしてみたいと思う。

2020年3月12日記