『銀の匙』中勘助2020-03-19

2020-03-19 當山日出夫(とうやまひでお)

銀の匙

中勘助.『銀の匙』(岩波文庫).岩波書店.1935(1999.改版)
https://www.iwanami.co.jp/book/b249200.html

この作品、若い時に読んだような記憶があるのだが、どうもはっきりとは憶えていない。新しい岩波文庫版で読んでみることした。

岩波文庫版の解説は、和辻哲郎となっている。それによると、この作品を夏目漱石が激賞したとある。このあたりの事情については、「漱石全集」で改めて確認しておきたいと思う。

私が、今この作品を読んで感じるとことは、基本的に次の二つである。

第一に、ヒューマニズム。

子どものときのことの回想という形式をとっている。その子どもの目にうつるこの人間の世界が描かれる。ここにあるのは、人間についての温かなまなざしである。それを、現代の概念でいうならば、ヒューマニズムといっていいだろう。

第二、叙情性。

自然描写が美しい。子どもの目で見た、その生活の身近にある季節の風物の描写が、なんともいえずみずみずしく新鮮である。すぐれた叙情性の作品である。

以上の二つ……ヒューマニズムと叙情性を、私は、この作品に感じ取る。

そしてさらに書いてみるならば……この作品は、「子ども」の世界のことを描いている。「子ども」の世界のことを、「子ども」の視点、発想で描ききっている。ここのところに、この作品の価値があるのだろう。

だが、それだけではないと思う。読みながら、ふと感じるのは、その「子ども」の世界を描いている「子ども」の視点、それを見ている大人になった作者の視線というものが、時折ふと感じるところがある。この作品が、単なる「子ども」の物語に終わっていないのは、この大人の視線が、屈折した形で織り込まれているからだろうと思う。

2020年3月9日記