『蜘蛛の糸・杜子春』芥川龍之介/新潮文庫2020-03-28

2020-03-28 當山日出夫(とうやまひでお)

蜘蛛の糸・杜子春

芥川龍之介.『蜘蛛の糸・杜子春』(新潮文庫).新潮社.1968(2010.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/ebook/E640011/

続きである。
やまもも書斎記 2020年3月27日
『地獄変・偸盗』芥川龍之介/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/03/27/9228553

新潮文庫で芥川龍之介を読んでいる。三冊目に手にしたのが『蜘蛛の糸・杜子春』である。

この本は、主に童話、あるいは、子ども向けに書かれたかと思われる作品、また、子どもの登場する作品を収めてある。

蜘蛛の糸
犬と笛
蜜柑
魔術
杜子春
アグニの神
トロッコ
仙人
猿蟹合戦


やはり有名な作品というと、「蜘蛛の糸」それに「杜子春」であろうか。最初に読んだのは、中学のころだったろうか。改めて読んでみると……芥川龍之介というのは、このような作品を書けば書ける作家だったのか、という一種の驚きのようなものである。平安の昔の人間の心のうちを理知的に描き出すような作品……「羅生門」とか「鼻」とか……を書いた作家が、「蜘蛛の糸」や「杜子春」のような作品を書いているということは、これはこれとして、非常に興味深いと感じる。

ここある作品のなかで、私が一番好きなのは「蜜柑」である。何気ない汽車のなかでの一コマの情景であり、登場人物は、私と小娘だけである。ただ、列車の窓から蜜柑を投げるだけのことが描かれている。その場面に居合わせた私が、その小娘の身の上についていろいろと思量する。読後感としては、爽やかな作品を読んだという印象が残る。しかし、この作品も、ある意味では、その光景を見ているだけの私については、近代の憂愁とでもいうべきものがただよっている。

2020年3月15日記

追記 2020-04-02
この続きは、
やまもも書斎記 2020年4月2日
『戯作三昧・一塊の土』芥川龍之介/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/04/02/9230636