「プロジェクトX」2024-03-31

2024年3月31日 當山日出夫

NHKが「新プロジェクトX」を放送するという。その特番もあったりするので、録画しておいて見たりしている。

かつての「プロジェクトX」は、そう多く見たということではない。何年前になるだろうか、その中から選んで再放送した時は、見ることにして見ていた。

いろいろと視聴者から人気のある回というのがあるようだが、私が見た範囲で一番記憶に残っているのは、炊飯器の開発の物語である。

炊飯器は、日本の人びとの生活を大きく変えた。それまで基本的に薪で御飯を炊いていたのが、電気で炊けるようになった。これは、主婦の家事を劇的に変えたことになる。昭和三〇年代のことになる。

今、もし、ゼロから炊飯器を開発するとするとどうするだろうか。釜で御飯を炊くのが先にあるとするならば、その過程での熱の加わり方、釜の内部での温度変化などを計測して、それを再現するように作る……おそらく、普通の人ならこう考えるだろう。たぶん、昔もそのように考えたにちがいない。しかし、それを実行する人はいなかった。

炊飯器を商品化したのは、東芝であった。だが、それを開発したのは、町工場であり、その開発のための実験データをとったのは、その町工場の奥さんだった。

こういうものを作るためには、このようなデータが必要になる。ならば、そのデータを計測し集める。この当たり前のことを実践しただけのことになる。だが、この当たり前のことを、実際に行うのは、かなり難しい場合がある。手間暇、予算、人的資源などの要因がからむ。

これは、私が、分野としては人文学における日本語研究ということになるが、研究者のはしくれとして生きてきたから思うことかもしれない。まだ分からないことがあるとして、それを明らかにするのは、こういう調査をすればいい、それは分かっている。しかし、誰もその調査に着手しようとしない。このような事例は多くある。当たり前に、こうすれば分かるはずだということが、なかなか分からないでいることがある。

炊飯器の開発に、大発見があったということではない。強いていえば、サーモスタットの開発が同時にあったことぐらいかもしれない。実験に従事した奥さんが病気で亡くなったということは、確かに悲劇的なことではあった。

だが、私が何よりも感銘を受けたのは、こういう手続きをすればいいという当たり前のことを実際にやってみるということである。これは、技術開発のみならず、学問研究の分野でも同じだと感じるところがある。

炊飯器の回は、是非、再放送してほしいと思う。

2024年3月29日記

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