『夜光亭の一夜』泡坂妻夫2018-10-05

2018-10-05 當山日出夫(とうやまひでお)

夜光亭の一夜

泡坂妻夫.末國善己(篇).『夜光亭の一夜-宝引の辰捕者帳ミステリ傑作選-』(創元推理文庫).東京創元社.2018
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488402211

東京創元社から、このところ刊行になっている、ミステリの選集の一つ。これは、泡坂妻夫の作品集である。

私が、泡坂妻夫を読み始めたのは、東京に出て大学生になってからのことになるだろうか。「幻影城」で世に出て活躍したミステリ作家である。私が学生として、神保町を歩いていたころだと、ゾッキ本(今ではこのような言い方をしなくなったようだが)として、かなりの本が売られていた。そのなかに、「幻影城」もあったかと記憶する。

その後、『みだれからくり』を読んだり、亜愛一郎のシリーズを読んだりしたものである。

この「縫引の辰」シリーズは、どうだったろうか。ともあれ、今回、創元推理文庫でまとめて読めるようになったので、買って読んでみた(再読かもしれないが)ものである。

泡坂妻夫は、とにかくうまい、としかいいようがない。ミステリの醍醐味がたっぷりとつまっている。この「宝引の辰」シリーズは、探偵役は、岡っ引きの「宝引の辰」であるが、語り手は、作品ごとにちがっている。いずれも、第一人称の語り手が登場するが、きまって、ある事件にかかわりをもった当事者の一人という設定である。

そして、ミステリ好きには、なるほど、あの作家のあの作品へのオマージュなのか……と感じさせるところが、いくつかにある。

余計なことながら、この『夜光亭の一夜』を読みながら、知らないことばが出てきて、日本国語大辞典(ジャパンナレッジ)で、確認しながら読んだ。たとえば、「希有けちりん」(p.244)、「倣(ほう)」(p.290)、「川垢離(せんごり)」(p.308)、「表徳(ひょうとく)」(p.313)、「藁蛇(わらじゃ)」(p.320)、「春山欲雨(しゅんさんよくう)」(p.347)、「一巻(いちまき)」(p.448)、などである。

それから、捕物帖(あるいは、「捕者帖」と書く)としての、基本に忠実である。江戸の景物の描写がいい。季節感もある。また、この泡坂妻夫ならではのことだが、着物やそれにある紋所のことなどについては、信頼をおいて読むことができる。

調べてみると、泡坂妻夫の作品のかなりは今でも新しい本でよめるようだ。これから、順番に読んで(再読)みようかと思っている。