『新ハムレット』太宰治/新潮文庫2020-11-12

2020-11-12 當山日出夫(とうやまひでお)

新ハムレット

太宰治.『新ハムレット』(新潮文庫).新潮社.1974(2009.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/book/100612/

続きである。
やまもも書斎記 2020年11月7日
『二十世紀旗手』太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/11/07/9313948

ここに収録されている作品は、次のとおりである。

「古典風」
「女の決闘」
「乞食学生」
「新ハムレット」
「待つ」

太宰の文学でいえば、中期、戦争中……日中戦争から太平洋戦争への時代……の作品であり、「新ハムレット」など、古典作品の枠組みをかりて、その創作へむかったものである。

解説を書いているのは、奥野健男であるが、その解説によると「新ハムレット」は、上演されることがあるという。現代演劇にうとい私には、このあたりのことが今はどうなっているのか、さっぱり分からない。ただ、読んだ印象としては、戯曲の形式をとってはいるが、これは、会話文を軸としてなりたっている小説なのだと思う。

そういえば、「ハムレット」を読んだのは、いつのころだったろうか。若いときに、いろいろと読んでいたなかで、読んだ記憶はあるのだが、今となっては、さっぱり忘れてしまっている。(ただ、シェークスピアの作品は、現代日本語訳で読んだのでは、今一つ隔靴掻痒の感がつきまとう。といって英語で読むほどの語学力があるわけでもないのだが。)

「新ハムレット」であるが、確かに「ハムレット」の枠組みをかりている。しかし、その書かれていることは、まぎれもなく太宰治の文学である。この作品においては、戯曲という形式をつかっているせいもあるが、とにかく語り口がうまい。特に、オフィリアなど女性の登場人物の語り口が魅力的である。

印象に残るのは、「女の決闘」。小説としても面白いが、これを読むと、鷗外の「全集」を見たくなってくる。もってはいるので(しまいこんであるが)、これも取り出してきて、読んでおきたくなった。

それから、最後に収録してある「待つ」。これがいい。いったい何を待っているのだろうか。この作品が書かれたのは、太平洋戦争がはじまってからのことになる。その時代のことを思って読むと、ただひたすら待つということにこめられた、時代へのまなざしのようなものを感じてしまう。しかし、このようなことを抜きにしても、魅力的な掌編である。

2020年11月5日記

追記 2020-11-13
この続きは、
やまもも書斎記 2020年11月13日
『きりぎりす』太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/11/13/9316039

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