『渋沢栄一 上 算盤篇』鹿島茂2021-11-13

2021-11-13 當山日出夫(とうやまひでお)

渋沢栄一(上)

鹿島茂.『渋沢栄一 上 算盤篇』(文春文庫).文藝春秋.2013(文藝春秋.2011)
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167590079

渋沢栄一について本を読んでおこうと思って手にした。他に以前に「渋沢栄一」とある本を読んだことはあるので、その人生、事跡の概略は知っているつもりだったが、NHKの『青天を衝け』も、残り二ヶ月となって、本を読んでおきたくなった。

鹿島茂の本は、いくつか読んだこともある。が、この『渋沢栄一』は、始めてである。この本の大部分は、『諸君!』に連載されたものである。『諸君!』は、時として手にすることのあった雑誌ではあるのだが、この連載を特に読んだという記憶はない。(まあ、雑誌を読むことはあっても、連載まであまり読まないのが、私の通例である。)

読んで、この本は面白い。読んで思うところを三点ばかり書いておく。

第一には、渋沢栄一の評伝としてよくできている。特に、幕末以降、一橋家への仕官から後、パリ行き、帰国して大蔵省、その後民間の経済人として生きることになる……このあたりを中心に、その事跡を丹念にたどってある。渋沢栄一の生きた時代と人生が、かなり詳細に記される。

第二には、渋沢栄一を、サン=シモン主義から分析、評価していることである。サン=シモン主義とは、ちょうど渋沢栄一がパリに居たころに、フランスの経済界を牽引していた考え方。カトリックの国でありながら、(フランス版の)「資本主義の精神」を体現した考え方ということになる。それに触れることになり、そして日本にもたらしたのが、渋沢栄一である。

第三には、「官」ではなく「民」、また、「官」ではなく「公」という、渋沢栄一の基本的な生き方。ただ、渋沢栄一が、利潤のみを追求する経済人であったなら、日本の近代の経済、あるいは、社会は、ちがったものになっていたであろう。

だいたい、以上の三つぐらいのことを思って見る。

今、NHKの『青天を衝け』は、明治の初めごろである。大蔵省を辞めて、第一国立銀行を作ったあたりのところである。この本を読むと、これまでドラマで描いてきた、各種の場面、エピソードが、こういう史料をつかって、このような意味を持っていたことなのかと、いろいろと気づかされるところが、いくつもある。

あるいは、この本は、ドラマが始まるまでに読んでおくべき本だったかもしれないとも思う。残りは下巻(算盤篇)がある。近代の日本の経済と社会、そのなかでの渋沢栄一を描くことになる。続けて読むことにしよう。

2021年10月31日記

追記 2021年11月18日
この続きは、
やまもも書斎記 2021年11月18日
『渋沢栄一 下 論語篇』鹿島茂
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/11/18/9441086