『渋沢栄一 下 論語篇』鹿島茂2021-11-18

2021-11-18 當山日出夫(とうやまひでお)

渋沢栄一(下)

鹿島茂.『渋沢栄一 下 論語篇』(文春文庫).文藝春秋.2013(文藝春秋.2011)
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167590086

続きである。
やまもも書斎記 2021年11月13日
『渋沢栄一 上 算盤篇』鹿島茂
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/11/13/9439767

上巻の「算盤篇」につづいて読んだ。下巻になると、年代を追っての評伝というよりも、渋沢栄一のいろんなエピソードを、順次紹介してくというふうになっている。これは、これとして、渋沢の事跡についての語り方だろう。

読んで印象にのこることとしては、次の二点ぐらいを書いておく。

第一には、民間外交。

特に日米間の、移民問題をめぐって、渋沢栄一は、民間にあってその立場から尽力することになる。なるほど、このような努力があったのかと、いろいろと思うことが多くあった。

それにしても、このあたりの記述を読んでいて感じることは、渋沢栄一の努力の一方で、このような状況を作り出すにいたった、アメリカにおける日本人移民排斥の動き、これが興味深い。アメリカの日系人問題は、たぶん歴史的に研究されていることなのであろうが、あまり一般的には知られていないように思える。

そして、この日系人排斥の問題が、その後の、日中戦争、太平洋戦争の遠因になっていることを思うならば、渋沢栄一の努力は、今の時点からかえりみて、さまざまに学ぶところがあるかと思う。

第二には、渋沢の家族。

渋沢栄一は、艶福家である。強いていうならば、その方面のことは、『論語』には書いていないから、自由によろしくやっていたということになる。とはいえ、このあたりのことは、現代の日本の家族倫理規範からするならば、かなり問題のあることではあるが。

最初の妻、千代のことが興味深い。尊皇攘夷運動にあけくれ、またパリに行ってしまった渋沢栄一の家のことを、きちんと守りとおして、子どもを育てた。(この千代夫人のことについては、今年読んだ本として、山田風太郎の明治小説のどこかで触れてあったことを思い出す。)

以上の二点ぐらいが、「下巻」を読んで思うことである。

鹿島茂の『渋沢栄一』は、上下巻でかなりの分量になる。かなりの年月をかけて雑誌連載をつづけ、それが本になったものである。この本から学ぶこと、あるいは、描かれた渋沢栄一の事跡から学ぶことは、非常に多くある。ただ、渋沢栄一の評伝の一つということにとどまらず、日本の近代の資本主義のあり方、また、社会のあり方をめぐって、いろいろと考えることの多い本である。

2021年11月11日記