『畏るべき昭和天皇』2011-01-30

2011-01-30 當山日出夫

松本健一.『畏るべき昭和天皇』(新潮文庫).新潮社.2011

私ぐらいの世代であれば、おぼえている。昭和64年の1月7~8日にかけてのことを。正直にいえば、それまで、あった緊張感が、やっとほどけて、ほっとひといき……という感覚であったのを。

だが、あの時の議論はなんだったのだろう……昭和から平成にかけて、さんざん、マスコミ、論壇で語られた、昭和天皇と、昭和という時代、端的にいえば、戦争責任の問題……それらは、語りつくされるだけでおわって、それをもとにして、新たな議論が展開しているようには、私には思えないのである。

そして、昭和は、いつのまにか、歴史になってしまった。

このような状況のなかで、あらためて、昭和という時代のまさに中心にいた人物、昭和天皇について書いた本として、興味深い。そのタイトルのごとく、「畏るべき」という印象をつよくもつ。

この本を読んで、ちょっと昭和天皇についてのイメージが変わった。それまでの私のイメージとしての昭和天皇は、戦前から戦後にかけて在位し、戦後は、民主主義のなかでの象徴天皇であった、というものであったが、どうやら、そうでもないらしい。新憲法における象徴としての天皇を体現しているのは、むしろ、今上陛下である。昭和天皇は、むしろ、君主であろうとした……ということになるであろうか。

昭和が歴史になってしまった今、広く読まれていい本だと思う。

當山日出夫(とうやまひでお)