青木理『日本会議の正体』2016-07-17

2016-07-17 當山日出夫

青木理.『日本会議の正体』(平凡社新書).平凡社.2016
http://www.heibonsha.co.jp/book/b226838.html

このところ、日本会議関連の本が、あいついで刊行になっている。

たとえば、新書本に限定しても、この本のほかにも、

菅野完.『日本会議の研究』(扶桑社新書).扶桑社.2016
http://www.fusosha.co.jp/Books/detail/9784594074760

山崎雅弘 .『日本会議-戦前回帰への情念-』(集英社新書).集英社.2016
http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0842-a/

などがある。

日本会議については、これらの本ですでに記されていることなので、ここでくりかえし書くまでのこともないだろう。

簡単にいえば……現在の日本における右翼勢力であり、安倍政権に非常な影響力をもっている。その源流をたどれば、宗教教団である生長の家からはじまる。その後、紆余曲折あって、いまでは、神社本庁との関係がふかい。その活動は、基本的に「草の根」運動にある。地道な地方での活動を積み重ねることによって、最終的に、日本の国政にまで影響を与える巨大なちからをもつようになった。その主張するところは、伝統的な日本の価値観の復権にある。端的にいえば、明治憲法の昔にもどれ、ということになるだろう……ざっと、このように要約できるかもしれない。

ここで私が書いておきたいことは、思想信条の自由、表現の自由の保証された現在の日本において、日本会議は合法的な存在である。この観点から批判することはできない。

では、何が問題になるのであろうか。単に「右翼」というだけで敵視していいのだろうか。

私としては、次の二点をのべておきたい

第一には、日本会議が、「伝統的」な価値観の回復をめざしている。これはこれでいいとしても、これは、近代的な立憲主義にそむくことになりはしないか。多種多様な価値観・世界観の共存をゆるすために、近代的な政治の諸制度はつくられている。これを、昭和戦前、あるいは、明治の昔にもどすというのは、単なる懐古趣味をこえて、近代の立憲政治を否定することにつながるのではないか、という危惧がある。

近代的な立憲主義、政治的な諸制度に立脚して現在の日本がある以上は、それを根底から否定しようとする勢力に対しては、おのずと警戒的にならざるをえないだろう。ある意味では、革命的発想といってもよい。(もちろん、思想信条の自由、言論の自由をみとめるとしてもである。)

なお、ここでいう近代的な立憲主義ということばは、長谷部恭男のいうところにしたがっている。

やまもも書斎記 2016年7月13日
長谷部恭男『憲法とは何か』「立憲主義の成立」
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/07/13/8130465

第二には、かりに明治の時代にもどすという価値観をみとめるとしても、それは、本当に日本の「伝統的価値観」になるのだろうか、という論点である。いや、そもそも、日本の「伝統」とは何であるか、そう簡単にいえることなのであろうか。

実は、ここのところが、日本の「保守」思想の一番の弱点であるはずである。まもるべき「伝統」が何であるか、確定することは難しい。

この点については、

やまもも書斎記 2016年7月1日
宇野重規『保守主義とは何か』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/07/01/8122012

いや、あるいは、この「保守」の「伝統」について、深く考えないで、ただ、明治憲法の昔にもどれという単純な発想が、日本会議の本質であるのかもしれない。この意味では、日本会議は、きわめて単純であるがゆえに、その意味で、思慮や反省がないだけに、たちが悪い。

単純なスローガンこそ、人々はなびきやすい……これは、世界の歴史がしめしていることではないのか。

以上の二点が、日本会議について、私の思うところである。その上でいうならば、2016年の参院選をうけて、改憲が議論されているなか、すくなくとも、日本会議が影響力をもつようなかたちでの、改憲はなされるべきではないと思う。私は「保守」であることは、悪いことだとは思っていない。これはこれで、ひとつの立場だと認める。しかし、その「保守」には、たえず、本当に自分の価値観はこれで正しいのだろうかという自省の念が必要である。この自意識なしの「保守」は、単なる過去の礼賛であり、現在への反動でしかない。

そして、確認しておきたいことは、日本会議のあり方をみるかぎり、この「保守」に本来必要とされる、理性的な自省の発想が見られない。これは、きわめて危険であるといわざるをえない。

追記 2016-07-28
山崎雅弘『日本会議-戦前回帰への情念-』については、
やまもも書斎記 2016年7月26日
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/07/26/8139498

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