ETV特集「フェイクとリアル 川口 クルド人 真相」2025-04-12

2025年4月12日 當山日出夫

ETV特集 フェイクとリアル 川口 クルド人 真相

今年になってぐらいからだろうか、ようやくマスコミで、クルド人、ということばが使われるようになったのは。それまでは、クルド人、ということばを使っただけで、それは差別発言である、として糾弾されることがあった。新聞などでも、せいぜい、トルコ国籍の、という表現であった。

SNS(主にXということになるが)では、極論しか出てこない。川口にいるクルド人は、テロリストで犯罪者集団である、偽装難民である、という。その一方で、クルド人は善良な人ばかりで悪い人など一人もいない、という。

まったくの悪い人ばかりということも信じがたいが、しかし、悪いことをする人が一人もいないということも、信じることはできない。(人間が一定数以上いれば、そのなかには、悪いことをする人間がふくまれているのが、普通の人間のあり方である。)

分かっていることは……川口に多くのクルド人が住んでいるということ、地元の人びと必ずしも良好な関係だけではないだろうということ(外国人がまとまって居住すればなんらかのトラブルがあるのが通常である)、その対応が地元自治体にまかせられていること、政府レベルでどうこうしようということはなさそうであるということ……まあ、これぐらいだろうか。

私の考えることとしては、いわゆる川口クルド人問題というのは、マスコミにも責任がある。Xで問題が広まっているのに、見て見ぬふりをしている。Xでの騒ぎなど、報道するに価しないとでも思っているのだろうか。こういうときに、最も必要なのは、事実はどうであるかということを、冷静に報道することである。そうでなければ、マスコミは都合の悪いことは報道しない自由があると見なされて、その虚偽の情報が、さも本当のことであるかのように拡散するだけである。

番組のなかで伝えていたこととしては、川口に多くのクルド人が住んでいることは確かであるが、そう大きな問題が地元であるということではない。だが、まったく何のトラブルもないということではない。生活習慣の違う外国人がまとまって住むことになれば、なんらかのトラブルはあるものである。これは、クルド人にかぎらず、ブラジルからやってきた日系の労働者の人びとについても、いえることである。

日本で生活するならば、日本の生活のルール(法律は無論のこと、人びとの生活の習慣などをふくめて)を守ってくれ、ということは、基本的にあっていいことである。多文化共生ということは、その上になりたつものだと思っている。これが、理不尽な要求であるとは、私は思わない。逆に、日本の人が外国に行って生活するなら、その国や地域の、生活のルールにしたがうというのは、当然のことだろう。

ただ、二〇〇〇人ほどのクルド人が住んでいて、そのうち七〇〇人ぐらいが難民申請をしている、というのは、かなり特殊な事情があるだろうとは思う。この数字が異常でないとするならば、他の国からやってきて日本に住んでいる人たちとの比較が必要である。

なかには、犯罪にかかわる人もいれば、偽装難民、出稼ぎ目的、という人もいる。これはこれで、事実として認めることでいいはずである。だが、だから、クルド人はすべてどうのこうのという議論になることではない。

ところで、気になったことがいくつかある。

番組のなかでは、「日本人は川口市から出ていけ」と書いたプラカードを掲げた画像については、これは生成AIを使ったフェイク画像であると思われると言っていた。私の見るかぎりでは、そうと断定してはいなかった。この写真、背景に建物もあるし、人間の顔も何人もはっきりと分かる。これらの場所や人物が特定できなかった、ということなのだろうか。そういう調査をしたのなら、その経緯について触れておくべきであり、フェイクであることの証拠を示さなければならない。場所も人物も特定できなかった、人物については架空のものである可能性が高い、あるいは、実在の人物の顔の画像を利用したものであるが、その本人はかかわっていない、このようなことは調査したと思うのだが、はたしてどうだったのだろうか。

これは禍根を残すことになりかねない。ソーシャルメディア上には、いろんな画像、映像がある。中には、フェイク画像もあるはずである。このとき、自分の主張したいことに反するものについては、それはAIによるフェイクである、と言ってしまうことを、安易に許すことになる。すべてがフェイク画像であるというわけではなく、中にはリアルであるものもあるにちがいない。本当に伝えるべきリアルの映像を、きちんと伝えるためには、フェイク画像については、なぜそう判断できるのか、ということの専門家による判断の根拠をしめすことが、必須になってくる。

自分の主張に反するものは、それはフェイク画像である、偽情報である、と言い合うだけでは、あまりいい将来を考えられない。そう判断した根拠をしめす、それができるのが、マスコミであり、調査報道というべきものであるはずである。(このような仕事は際限のないことかもしれないが、マスコミは、いやマスコミだけが、それが出来る。)

この画像以外で、虚偽の書き込みや映像については、その証拠を示し、裏をとる取材を行っていたのに、この画像だけは、それが出来ていないという印象をうける。はたしてどうだったのだろうか。

木下顕伸が登場していたが、戦前の伝統的な右翼思想としての大アジア主義がどんなものであるのか、ということは、説明があってもよかったかもしれない。そのインタビューの背景に写っていたのは、頭山満の書であり、肖像であった、と判断できる。このような日本の伝統的右翼思想と、近代的な保守思想(エドマンド・バークにはじまり、日本では福田恆存や西部邁などがとなえたような)と、近年になってSNSで目立つようになったネトウヨなど、これらは、根本的にちがうものである。

2025年4月11日記

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