『ひよっこ』あれこれ「真っ赤なハートを君に」2017-09-17

2017-09-17 當山日出夫(とうやまひでお)

ひよっこ
http://www.nhk.or.jp/hiyokko/index.html

第24週「真っ赤なハートを君に」
http://www.nhk.or.jp/hiyokko/story/24/

今週は、時子の週だったといってよい。前回で、このドラマは「教養小説」である、という意味のことを書いた。地方から東京に出てきて働いている「普通」の女の子の成長の物語である。

時子も、みね子と一緒に奥茨城から出てきた。同じトランジスタラジオの工場(向島電機)で働いた。だが、時子には、東京に出るときから、夢があった。女優になる、という夢が。

その夢をかなえるため、ツイッギーのコンテストに出場する。それを、すずふり亭、あかね荘のみんなで応援している。コンテストの前日には、裏庭でリハーサルをやっていた。そして、時子は、無事にコンテストに優勝して、芸能界へと歩み出していく。

まさに、自分の夢をかなえる女性……朝ドラの一般的な話し、その王道をいっている感じがする。みね子には、特に何をかなえるという夢があるというわけでもない、「普通」の女の子として描いているのと、きわめて対照的である。

そして、別に、みね子と時子はライバルというわけではない。同じ奥茨城から出てきた親友である。(悪い人、敵役の出てこないこのドラマとしては、こういう描き方になるのであろう。)

この時子の描き方を見ていても、このドラマは、「教養小説」なのだな、という印象を強くもつ。女優にむかって成長していく若い女性の物語である。

その一方で、みね子の方も、ヒデとどうやらうまくいきそうである。

この週、特にみね子の背負っている不条理……父親の記憶喪失ということ……については、進展はなかった。このまま、父親の記憶がもどらないままで、奥茨城で生活していく、という道も選択肢としてはあるのかもしれない。

だが、最後にどうなるかわからない。ここは期待をもって見ることにしよう。

ところで、ドラマも終盤になって、これまでに登場した幾人かが、出てきていた。土曜日には、向島電機の社員だった松下が、電機工事の仕事で登場していた。また、時子のリハーサルの時には、豊子や澄子なども集まっていた。

さて、気になるのは、早苗の月時計での話しの行方である。みね子と世津子が一緒の部屋でくらすことの提案。そして、自分の恋の話しをはじめる……ここも、うまくおさめるかたちで、このドラマは終わることになるのだろうとは思う。

この早苗という、ちょっと距離をおいて周囲を眺める視点の存在を取り込むことによって、すずふり亭やあかね荘の人間関係を、俯瞰的に描き出している。この早苗という人物の視点の設定が、このドラマの脚本のうまいところでもあると思ってみている。ナレーションの視点でもなく、ドラマ作者の神の視点でもなく、登場人物の中のひとりでありながら、全体から距離をおいて見てみる。

脚本作者の視点、ナレーションの語りの視点、登場人物の視点、これらではない、さらに別の視点を、このドラマに設定していることになる。そう思ってみると、あかね荘を舞台にしては、早苗の視点からの発言で、ドラマが動く、新しい局面へと展開していく、ということがあったように思い出す。

大家さんも、さすが妖怪である。なかなか死にそうもない。たぶん、最後まで元気でいるにちがいない。