『雨』サマセット・モーム2017-09-25

2017-09-25 當山日出夫(とうやまひでお)

サマセット・モーム.中野好夫(訳).『雨・赤毛』(新潮文庫).新潮社.1959(2012.改版)
http://www.shinchosha.co.jp/book/213008/

モームの短編集は、現在では、岩波文庫で上下巻が出ている。それには、この作品はふくまれていない。

人間性の底にひそむ矛盾、理不尽、不条理、邪悪なもの……このようなものを、端的に描き出した作品だと思う。と同時に、短篇として、やはりたくみであると感じさせる。

題材、舞台設定としては、モームの作品の中では、南海ものとでもいいだろうか(中野好夫の解説による)。東南アジア、南太平洋を舞台にした作品を、いくつか書いているが、そのなかの一つということになる。

そして、この作品を印象づけるのは、タイトルにもなっている「雨」である。別に雨が降っていなくても、この作品はなりたつとは思う。だが、雨が降っている、降り続けているという描写が背景にあって、この作品は、より際立つものになっている。

モームの作品については、『月と六ペンス』でも書いたように、人間性に対するどこか距離をおいて冷めた目でみる感じがある。決してヒューマニズムの作家ではない。一見、善良に見えていても、その心の底にひめた邪悪ななにものかがひそんでいる、それを冷徹に見据える目をもっている。

だからといって、破滅的な人間観というのでもない。20世紀の小説たるゆえんかなと思っている。