『坊っちゃん』夏目漱石2019-11-07

2019-11-07 當山日出夫(とうやまひでお)

坊っちゃん

夏目漱石.『坊っちゃん』(新潮文庫).新潮社.1950(2012.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/book/101003/

続きである。
やまもも書斎記 2019年11月4日
『吾輩は猫である』夏目漱石
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/11/04/9172644

おそらく、漱石の作品の中では一番有名かもしれない。現代でも、中学高校生ぐらいで十分に読めるし、また、読まれている(だろうと思う)作品である。

新潮文庫版の解説を書いているのは、江藤淳。読んでなるほどと思うところがいくつかある。最も納得するところは……この物語は、正義感の物語であり、そして、直情径行な正義感は敗北せざるをえないものである……このような意味の指摘がなされている。そう思ってみれば、たしかに、この物語は、正義感の物語である。だが、その正義は、敗北することになる。

いったい何に敗北することになるのか。たぶん、「近代」ということになるのかもしれない。主人公「坊っちゃん」は、江戸の生まれである。江戸の文化のなかで育ってきている。また、行動をともにする「山嵐」は、会津の出身である。会津もまた、明治維新における敗北者であるともいえよう。その一方で、「近代」を代表するのは、文学士である「赤シャツ」だろう。そして、漱石から見れば、「赤シャツ」に象徴されるような「近代」は、まがいものにすぎない。

このような読み方は、やや強引かもしれない。だが、この物語が敗北せざるをえない正義感であり、前近代の価値観である……このことは、読みとっていいことだろうと思う。

ところで、この『坊っちゃん』を読んで感じたことだが、これもまた「落語」だな、ということ。バッタをめぐる中学生とのやりとり、あるいは、下宿の婆さんとの会話など、江戸ことばと、松山方言とをまじえた「落語」であると思う。

それから、今回、この作品を読んでみて……これも、久しぶりのことになるのだが……随所にある、漱石の文章のもつ叙情性ということを感じた。ふとした景色の描写、風景の描写が、実に詩的である。「坊っちゃん」は俳句にはとんと興味が無いようだが、しかし、この『坊っちゃん』という作品には、俳句的情緒を感じとることができる。

次に読もうと思っているのは、『倫敦塔・幻影の盾』である。

追記 2019-11-09
この続きは、
やまもも書斎記 2019年11月9日
『倫敦塔・幻影の盾』夏目漱石
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/11/09/9174436