『辺境・近境』村上春樹2020-02-27

2020-02-27 當山日出夫(とうやまひでお)

辺境・近境

村上春樹.『辺境・近境』(新潮文庫).新潮社.2000(新潮社.1998)
https://www.shinchosha.co.jp/book/100148/

続きである。
やまもも書斎記 2020年2月1日
『頼むから静かにしてくれ Ⅱ』レイモンド・カーヴァー/村上春樹(訳)
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/02/01/9208924

村上春樹の紀行文集である。

村上春樹は、よく旅に出る。そして、そのことを題材に紀行文とでもいうべき作品を書いている。例えば、『遠い太鼓』などは、その一つかもしれない。また、エッセイなどにおいても、ちょっとした旅のことなど出てきていたかと思う。さらには、アメリカに滞在していたときのことも、作品にしている。

この本におさめてあるのは、

イースト・ハンプトン 作家たちの静かな聖地
無人島・からすの島の秘密
メキシコ大旅行
讃岐・超ディープうどん紀行
ノモンハンの鉄の墓場
アメリカ大陸を横断しよう
神戸まで歩く

どれも、紀行文というジャンルに分類されることを除けば、共通するところはないかのごとくである。だが、読んでいくと、これは、まぎれもなく村上春樹の書いた文章である、村上春樹の文学世界である、と感じるところがある。

また、紀行文という以外に共通するものはなさそうではあるが、しかし、これらの文章の根底にあるのは、現地に自分の身を置いて感じ、考える、見る、味わうという……まさに旅の基本、これがある。香川県に行って讃岐うどんをひたすら食べる文章の後に、中国とモンゴルに行ってノモンハン事件(実際には、戦争というべきだが)の後を、自分の足で現地にたって確かめている。

そういえば、村上春樹の作品の登場人物の多くは、旅に出る。村上春樹文学における旅とは何か……このような問題意識をもって読んでみても、面白い本である。

『源氏物語』の岩波文庫本(既刊、七冊)を読んで、気分を変える意味で、村上春樹のエッセイ、翻訳など読んでおきたいと思っている。次は、『極北』である。この作品の著者(マーセル・セロー)の名前が、『辺境・近境』のなかで出てきた。

2020年2月15日記

追記 2020-03-07
この続きは、
やまもも書斎記 2020年3月7日
『極北』マーセル・セロー/村上春樹(訳)
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/03/07/9221457