『制裁』A・ルースルンド、B・ヘルストレム ― 2017-03-01
2017-03-01 當山日出夫
アンデルシュ・ルースルンド & ベリエ・ヘルストレム.ヘレンハルメ美穂(訳).『制裁』(ハヤカワ文庫).早川書房.2017 (ランダムハウス講談社.2007 改稿)
http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013473/
本には、ふとした運命というものがあるのだろう。この本、10年ほど前に、ランダムハウス講談社から刊行されていたもの。絶版。それが、昨年、『熊と踊れ』が話題になったということで、再び、刊行になった。今度は、早川書房から。ハヤカワ文庫での刊行だから、ミステリとしては、れっきとしたブランドである。
やまもも書斎記 2016年12月30日
A・ルースルンド、S・トゥンベリ『熊と踊れ』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/12/30/8298284
もし、この本が、はじめからハヤカワから刊行になっていたら、たぶん、今年のミステリのベストにはいる作品になるにちがいない。(改稿、再刊、というのは、選出の基準にどう影響するのだろうか。)
また、こういうこともいえる。ミステリには、二つの方向がある。
第一には、知的ゲームとしての方向。例えば、昨年の作品であれば、『涙香迷宮』(竹本健治)がそうである。
第二には、その時代、社会を、犯罪を通じて描く。昨年の作品であれば、『熊と踊れ』がそうである。
そして、この『制裁』、あきらかに、後者のタイプ。小児性愛犯罪者が、脱獄するところから小説ははじまる。そして、おこる事件。被害者。その家族。そして、さらにおこる事件。捜査。逮捕。裁判。そして、事件。
この作品に描かれるのは、現代社会における、児童ポルノ犯罪、小児性愛犯罪、その被害者の家族(親)はどうすべきか、いや、それを超えて、現代社会において、犯罪はどのように裁かれるべきであり、その被害者は、どのようにふるまうべきなのか、という実に、現代的な問題提起がなされている。犯罪小説というものを通じて、現代社会のかかえる、種々の問題にするどくきりこんでいる。そして、問いかけるものがある。
この文庫本の帯には、「警察小説」とあるが、私の感想としてはあまりそのような印象はつよくない。むしろ、(こんな用語が適切かどうかわからないが)「刑務所小説」とでもいった方がよいかもしれない。小説の舞台のかなり部分が、刑務所内の描写になっている。この点では、あまりに日本の刑務所のあり方と違うので、やや驚く面もある。
日本とは、司法、警察、刑務所、などの制度がちがうので、すんなりとは理解できないところもあるのだが、しかし、社会全体として、犯罪について、どう対処すべきか、という観点からは、共感して読むことができる。特に、近年、我が国でも議論になっている、性犯罪者の情報は開示されるべきなのか、どうか、という議論にも及んでいる。
私としては、契機がどうであれ、埋もれていた作品、それも傑作というべきを、再発掘して世に出したということで、早川書房の判断を是としておきたい。『熊と踊れ』を面白く読んだ人には、おすすめである。
アンデルシュ・ルースルンド & ベリエ・ヘルストレム.ヘレンハルメ美穂(訳).『制裁』(ハヤカワ文庫).早川書房.2017 (ランダムハウス講談社.2007 改稿)
http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013473/
本には、ふとした運命というものがあるのだろう。この本、10年ほど前に、ランダムハウス講談社から刊行されていたもの。絶版。それが、昨年、『熊と踊れ』が話題になったということで、再び、刊行になった。今度は、早川書房から。ハヤカワ文庫での刊行だから、ミステリとしては、れっきとしたブランドである。
やまもも書斎記 2016年12月30日
A・ルースルンド、S・トゥンベリ『熊と踊れ』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/12/30/8298284
もし、この本が、はじめからハヤカワから刊行になっていたら、たぶん、今年のミステリのベストにはいる作品になるにちがいない。(改稿、再刊、というのは、選出の基準にどう影響するのだろうか。)
また、こういうこともいえる。ミステリには、二つの方向がある。
第一には、知的ゲームとしての方向。例えば、昨年の作品であれば、『涙香迷宮』(竹本健治)がそうである。
第二には、その時代、社会を、犯罪を通じて描く。昨年の作品であれば、『熊と踊れ』がそうである。
そして、この『制裁』、あきらかに、後者のタイプ。小児性愛犯罪者が、脱獄するところから小説ははじまる。そして、おこる事件。被害者。その家族。そして、さらにおこる事件。捜査。逮捕。裁判。そして、事件。
この作品に描かれるのは、現代社会における、児童ポルノ犯罪、小児性愛犯罪、その被害者の家族(親)はどうすべきか、いや、それを超えて、現代社会において、犯罪はどのように裁かれるべきであり、その被害者は、どのようにふるまうべきなのか、という実に、現代的な問題提起がなされている。犯罪小説というものを通じて、現代社会のかかえる、種々の問題にするどくきりこんでいる。そして、問いかけるものがある。
この文庫本の帯には、「警察小説」とあるが、私の感想としてはあまりそのような印象はつよくない。むしろ、(こんな用語が適切かどうかわからないが)「刑務所小説」とでもいった方がよいかもしれない。小説の舞台のかなり部分が、刑務所内の描写になっている。この点では、あまりに日本の刑務所のあり方と違うので、やや驚く面もある。
日本とは、司法、警察、刑務所、などの制度がちがうので、すんなりとは理解できないところもあるのだが、しかし、社会全体として、犯罪について、どう対処すべきか、という観点からは、共感して読むことができる。特に、近年、我が国でも議論になっている、性犯罪者の情報は開示されるべきなのか、どうか、という議論にも及んでいる。
私としては、契機がどうであれ、埋もれていた作品、それも傑作というべきを、再発掘して世に出したということで、早川書房の判断を是としておきたい。『熊と踊れ』を面白く読んだ人には、おすすめである。
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