英雄たちの選択「田沼意次 大ピンチ! 〜意知 殿中刺殺事件〜」 ― 2025-06-24
2025年6月24日 當山日出夫
英雄たちの選択 田沼意次 大ピンチ! 〜意知 殿中刺殺事件〜
『べらぼう』では田沼意知はまだ死んでいない。このときに、このタイトルで番組を作るというのは、NHKというのは、やはり変な人がいる(?)と思うが、いや、むしろこういう方が、組織としてよりまともなんだろう。
これは面白かった。個々の歴史的なことについては、近世史の研究者なら周知のことであるにちがいないが、それらをふまえて、田沼意次の政治をどう評価するかということでは、かなり大胆ではあるが、しかし、かなり意味のある考え方を示していたということになるだろうか。
「週間磯田」で、意知刺殺事件を解説していたのは、面白い。ひょっとすると、そうだったのかもしれない……という感じはする。だが、いかんせん、史料がないことなので、歴史家としては何とも言いようのない範囲のことにはなるのだろうが。そうとはいえ、歴史学者として論文に書くことだけで、歴史を考えることはできない、ということぐらいはあるかなと思う。
飯田泰之が言っていたが、歴史を動かすようなテロ事件が起きたりすると、その背後には実はこんなことがあったからだという、陰謀論のようなものが、人びとの間にささやかれる……これは、そのとおりだと思う。偶然的におこった出来事の背景に、歴史の必然を見出そうとする心理、ということができる。(これは歴史とは何かということにつながる問いかけでもある。)
まさに、今の日本や世界のあり方を見ていると、実際に起こる事件や戦争などよりも、その背後には何があるのかという憶測というべきものが、多くの人びとの気持ちを動かして世論に影響を与えていく、それにソーシャルメディアが拍車をかけていている……このように考えることができるだろうか。
田沼意次の政治を考えることは、日本の近代を考えることにつながる、こうもいえるかもしれない。重商主義政策、蝦夷地の開発、ロシアとの外交、幕府体制と将軍への権力の集中、こういうことが大きく日本を変えていった可能性があることになる。だが、それは、この時代においては、各地の藩の独立性を壊していくことになるはずで、やはり大きな社会の変革(まあ、革命とまではいわないが)が必要になっただろうとは思う。歴史の結果としては、明治維新ということになる。
田沼意次の政治にブレーキをかけたのが、浅間山の噴火、天明の飢饉、印旛沼開拓の失敗、ということであり、そこに、田沼意知の刺殺事件が加わることになる。ここで、一般庶民(江戸時代のことを考えるのに、こういうことばが本当に適切なのかどうかという吟味は必要だと思うが)のことを、もう少し考える、今でいえば、格差拡大社会においてとりのこされる一般庶民へのセーフティネットの構築ということをやっていれば、もうちょっと時代の流れは変わったかもしれない。これをやったのが、次の時代の松平定信の時代ということは、そうなのだろうと思う。
大石学が紹介していた落首、
世に合うは 道楽者に おごりもの ころび芸者に 山師運上
世に合わぬ 武芸学問 御番衆の ただ奉公人に 律儀なる人
ここのところは、用語の解釈や説明などあった方が、もうちょっと分かりやすかったかもしれない。このあたりの世相をどう考えるかは、『べらぼう』で描いている時代をどう見るかということにかかわってくる。
中で言っていたことで、非常に興味深いことの一つは、田沼の時代、今でいう風俗業から税金をとっている。つまり、そういう仕事を幕府として公認しているということになる。(厳密には、当時の税や法についての解説が必要なところだと思うが。)最近のニュースで、COVID-19パンデミックのとき、風俗業の業者には支援のための給付金を与えなかったことが違憲か合憲か、という裁判所の判断が話題になっていた。時代や価値観が違うとはいえ、これは考えてみるべきことである。
最終的に、田沼意次は、経済中心主義で、今でいえば新自由主義的な政治家だったということになるかもしれない。ここで、日本という国全体をどう統合するべきか、その基盤はなんであるのか、ということまで考えることが出来ていれば、歴史は変わっていたかもしれない、ということになるだろう。世界のなかにおける近代国家としての日本ということが、志ある人たちによって考えられるようになるのは、やはり、次の時代まで待たなければならなかったといことになる。よくもわるくも、日本におけるナショナリズム……これは必ずしも排他的な国権主義ではない……の成立には、さらなる契機が必要だったことになる。
2025年6月22日記
英雄たちの選択 田沼意次 大ピンチ! 〜意知 殿中刺殺事件〜
『べらぼう』では田沼意知はまだ死んでいない。このときに、このタイトルで番組を作るというのは、NHKというのは、やはり変な人がいる(?)と思うが、いや、むしろこういう方が、組織としてよりまともなんだろう。
これは面白かった。個々の歴史的なことについては、近世史の研究者なら周知のことであるにちがいないが、それらをふまえて、田沼意次の政治をどう評価するかということでは、かなり大胆ではあるが、しかし、かなり意味のある考え方を示していたということになるだろうか。
「週間磯田」で、意知刺殺事件を解説していたのは、面白い。ひょっとすると、そうだったのかもしれない……という感じはする。だが、いかんせん、史料がないことなので、歴史家としては何とも言いようのない範囲のことにはなるのだろうが。そうとはいえ、歴史学者として論文に書くことだけで、歴史を考えることはできない、ということぐらいはあるかなと思う。
飯田泰之が言っていたが、歴史を動かすようなテロ事件が起きたりすると、その背後には実はこんなことがあったからだという、陰謀論のようなものが、人びとの間にささやかれる……これは、そのとおりだと思う。偶然的におこった出来事の背景に、歴史の必然を見出そうとする心理、ということができる。(これは歴史とは何かということにつながる問いかけでもある。)
まさに、今の日本や世界のあり方を見ていると、実際に起こる事件や戦争などよりも、その背後には何があるのかという憶測というべきものが、多くの人びとの気持ちを動かして世論に影響を与えていく、それにソーシャルメディアが拍車をかけていている……このように考えることができるだろうか。
田沼意次の政治を考えることは、日本の近代を考えることにつながる、こうもいえるかもしれない。重商主義政策、蝦夷地の開発、ロシアとの外交、幕府体制と将軍への権力の集中、こういうことが大きく日本を変えていった可能性があることになる。だが、それは、この時代においては、各地の藩の独立性を壊していくことになるはずで、やはり大きな社会の変革(まあ、革命とまではいわないが)が必要になっただろうとは思う。歴史の結果としては、明治維新ということになる。
田沼意次の政治にブレーキをかけたのが、浅間山の噴火、天明の飢饉、印旛沼開拓の失敗、ということであり、そこに、田沼意知の刺殺事件が加わることになる。ここで、一般庶民(江戸時代のことを考えるのに、こういうことばが本当に適切なのかどうかという吟味は必要だと思うが)のことを、もう少し考える、今でいえば、格差拡大社会においてとりのこされる一般庶民へのセーフティネットの構築ということをやっていれば、もうちょっと時代の流れは変わったかもしれない。これをやったのが、次の時代の松平定信の時代ということは、そうなのだろうと思う。
大石学が紹介していた落首、
世に合うは 道楽者に おごりもの ころび芸者に 山師運上
世に合わぬ 武芸学問 御番衆の ただ奉公人に 律儀なる人
ここのところは、用語の解釈や説明などあった方が、もうちょっと分かりやすかったかもしれない。このあたりの世相をどう考えるかは、『べらぼう』で描いている時代をどう見るかということにかかわってくる。
中で言っていたことで、非常に興味深いことの一つは、田沼の時代、今でいう風俗業から税金をとっている。つまり、そういう仕事を幕府として公認しているということになる。(厳密には、当時の税や法についての解説が必要なところだと思うが。)最近のニュースで、COVID-19パンデミックのとき、風俗業の業者には支援のための給付金を与えなかったことが違憲か合憲か、という裁判所の判断が話題になっていた。時代や価値観が違うとはいえ、これは考えてみるべきことである。
最終的に、田沼意次は、経済中心主義で、今でいえば新自由主義的な政治家だったということになるかもしれない。ここで、日本という国全体をどう統合するべきか、その基盤はなんであるのか、ということまで考えることが出来ていれば、歴史は変わっていたかもしれない、ということになるだろう。世界のなかにおける近代国家としての日本ということが、志ある人たちによって考えられるようになるのは、やはり、次の時代まで待たなければならなかったといことになる。よくもわるくも、日本におけるナショナリズム……これは必ずしも排他的な国権主義ではない……の成立には、さらなる契機が必要だったことになる。
2025年6月22日記
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