『構造化するウェブ』2008-01-18

2008/01/18 當山日出夫

岡嶋裕史.『構造化するウェブ』(講談社ブルーバックス).講談社.2007

概括してしまえば、今、はやりの言葉いう「Web2.0」関連の書物のひとつ、ということになるが、その中では、ひと味ちがう。

まず、「はじめに」で、

『ウェブ社会をどう生きるか』(岩波新書).西垣通.岩波書店.2007

『ウェブ進化論』(ちくま新書).梅田望夫.筑摩書房.2006

の2冊をしめし、これらの本をふまえている旨が明記されている。読者に対して、読んでおいてほしいとある。(私は、読んではいるが。)

つまり、この本自体が、「ウェブ社会」について、その技術の流れと、それに対して、社会がどう反応しているかの流れ、異なる次元について、総合的に見る視点で書かれている。

そして、私がこの本から学ぶべきだと、読み取ったことは、「理念」と「現実」とを、きちんと分けて考えること、である。この本では、まず、インターネットを現実的な社会のインフラとして、ウェブ社会が目指している理念(Web2.0)の方向について、語っている。

現実に今のインターネットで何が起こっているか、の議論も大事である。グーグルやアマゾンのシステムがどうなっていて、それによって社会が、私たちの生活が、今現在、どうなっているのかについての認識は重要である。この方向では、たとえば、

『グーグル・アマゾン化する社会』(光文社新書).森健.光文社.2006

などは、きわめて参考になる。

ところで、『構造化するウェブ』から、興味深い記述をひろってみる。

明確な法則があるわけではないが、利用者に面倒だと感じさせる技術は普及しない可能性が非常に高い。これは利益と不利益の差をとって不利益が大きいという場合、という意味ではない。利益と不利益を比較してどんなに利益が大きくても、不利益のレベルがある一定の水準を超えると使われなくなってしまうのである。特にウェブ利用者の不利益に対する感受性はナーバスだ。(pp.104-105)

そして、この本の基調となっている、技術のめざしている「理念」と、実際に実現していることがらとしての「技術」、これを区別して、将来の「理念」を見据えるという姿勢、これは、きわめて学ぶべきものがあると考える。

このブログのテーマでもある、人文学研究とコンピュータ(人文情報学/デジタル・ヒューマニティーズ)にとって、貴重な視点である。つまり、

1.デジタル・ヒューマニティーズとして何を目指すのか、それは、従来の人文学研究とどう違うのか、という未来に向けての「理念」。

2.今のコンピュータ技術では、いったい何が可能であるのか、実現していることは何であるのかという、現実の「技術」。

この両者を整理して議論しないといけないだろう。今の技術で可能なことだけで、デジタル・ヒューマニティーズを語ってはいけない。また、実現不可能な空想の世界のことにしてしまってもいけない。

とはいえ、技術はどんどん進歩する。今から20年前、今のインターネットの社会を、どれほどの人が想像しえただろうか。だが、現在では、すくなくとも、「Web2.0」という、「理念」の方向は確実に定着している。これに沿った、デジタル・ヒューマニティーズ論を、考えていきたいものである。

人文学研究者にとって、「不利益」「面倒」と感じさせる閾値を可能な限りひくくすること、また、実際の人文学研究者が、コンピュータやインターネットにどう反応しているかについて、観察をおこたらないことが、重要である。

コンピュータを使わない研究者を排除するようになってしまっては、デジタル・ヒューマニティーズの未来はない……このように予見させる本である。

當山日出夫(とうやまひでお)

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