100分de名著「司馬遼太郎“覇王の家” (4)後世の基盤をどう築いたか」2023-08-30

2023年8月30日 當山日出夫

100分de名著 司馬遼太郎“覇王の家” (4)後世の基盤をどう築いたか

ちょうど『どうする家康』では、石川数正のことが出てきていたので、これを思い合わせてなかなか面白かった。ひょっとする、徳川家康のことを考えるうえで、石川数正という人物は、きわめて重要な位置にいることになるのかもしれない。

番組で出てきていたことばに「三河かたぎ」がある。このことばで徳川家康を考えることは、たしかに一つの方法だろう。三河かたぎが、江戸幕府をつくり、そして、近代以降の日本の国のあり方にまでおよんでいる。

これは、司馬遼太郎の書いたものを読むとよく出てくる発想である。「~~人」という類型化が、司馬遼太郎には多くある。読んでいて、そんなに人間というものは、類型的に捕らえることは出来ないものだろうと、私などは思ってしまう。だが、「~~人」という類型で説明されると、分かったような気になることも確かなことである。

司馬遼太郎については、賛否両論あるだろうと思う。しかし、司馬遼太郎は、自身の戦時中の体験から、日本の国のあり方、日本人というものを考えてきた人であることは確かである。その考え方に批判的であるとしても、昭和の時代の作家として司馬遼太郎がいたということは、重要なことであると思う。

2023年8月29日記

『アベノミクスは何を殺したか』原真人/朝日新書2023-08-30

2023年8月29日 當山日出夫

アベノミクスは何を殺したか

原真人.『アベノミクスは何を殺したか-日本の知性13人との闘論-』(朝日新書).朝日新聞出版.2023

安倍晋三が死んでから一年以上になる。その政治に対する批判、検証、検討の本がかなり出てきている。これは、死ぬ前から出ているものもある。が、死んで一応の区切りがついたところで、改めてその政治はなんであったのか検証しようという流れがあることはたしかだろう。

この本は、特にアベノミクスという経済政策に焦点をあてて批判的に検証してある。著者は、朝日新聞の経済部の記者である。

私は、経済、経済学のことには疎い。というよりも全くの門外漢であると言っていい。アベノミクスということばは知っていても、その内実についてはあまり考えてきたことはない。せいぜい、低金利政策のせいで銀行にお金を預けてもほとんど利息が付かない世の中になってしまったというぐらいである。

読んで思うことは次の二つぐらいがある。

第一には、アベノミクスは失敗であったということ。すくなくとも大成功とはいえないだろう。せいぜい評価するとして、功罪相半ばするぐらいが関の山である。黒田日銀総裁の路線については、その当初から日銀内部で批判的であったことがわかる。だが、安倍晋三は、強引な人事でアベノミクスを推進することになった。失敗(かもしれない)とわかっても、改めることができなかった。

引き返す覚悟がなかったことが、一番の問題点かもしれない。

第二には、安倍政権のもとでの官僚システムの破壊。それまでは、官僚には責任感があった。政治家が何と言おうと、官僚の責務においてその職責をつらぬくという自負があった。これも、安倍晋三は破壊してしまった。いわゆる官邸主導ということで、人事を握ってしまえば、官僚の自立性は失われる。

従来、官僚システムの硬直化という問題点が指摘されることがあった。しかし、これは、今になってふり返ってみれば、政治家の暴走をとめる働きとして機能してきたことにもなる。

以上の二つのことが印象に残る。

経済のことに不案内なので、よく分からない議論もあったりするのだが、しかし、全体として公平な視点からアベノミクスを評価しているものと判断する。安倍晋三批判本が多くあるなかで、出色の一冊だと思う。

2023年8月23日記