「しれっと」は海軍用語か2017-02-13

2017-02-13 當山日出夫

島尾敏雄の『魚雷艇学生』を読みながら、付箋をつけた箇所。「しれっと」の用例である。

島尾敏雄.『魚雷艇学生』(新潮文庫).新潮社.1989 (新潮社.1985)
http://www.shinchosha.co.jp/book/116404/

以下、引用である。〈 〉は原文傍点。

私が頼りにしていたのは、誰だったか教官の一人に教えられた、青年士官はどんな逆境にも〈しれっ〉としておれ、という心得の言葉であった。〈しれっ〉とするというのは動じないで平気な様子を保っていること指すと思われた。〈しれっ〉としているように装うことで私はやっと何かを支えている気持になってきたのだ。(p.53)

ちなみに、『日本国語大辞典』(第二版、ジャパンナレッジ)では次のようにある。

物に動じないさま、けろっとして何も問題にするものはないという態度であるさま、また、何事もなかったように厚かましくふるまうさまを表わす語。

初出例は、1967、井上光晴、である。

確かに、初出例という点では、日本国語大辞典の用例の方が古い。だが、島尾敏雄の書いていることからは、この「しれっと」のことばは、海軍用語として戦前・戦中からつかわれていたとおぼしい。

なお、私の記憶では、この「しれっと」のことばは、吉田満もその著作のどこかでつかっていたと憶えている。島尾敏雄、吉田満の用例から考えるならば、海軍用語として考えてもいいだろう。つまり、その用例をさがせば、戦前のものに遡りうるということである。

その用例を戦前の文献に探すことは、難しいものかもしれない。しかし、戦争の手記、回顧録などを見ることによって、確認できるだろうか。少なくとも、海軍用語としての「しれっと」という解説は、辞典にあってもよいように考える。

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