『ノルウェイの森』(上)村上春樹2019-04-26

2019-04-26 當山日出夫(とうやまひでお)

ノルウェイの森(上)

『ねじまき鳥クロニクル』に続けて読んだ。

やまもも書斎記 2019年4月25日
『ねじまき鳥クロニクル』(第3部)村上春樹
村上春樹.『ノルウェイの森』(上)(講談社文庫).講談社.2004 (講談社.1987)
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000203588

この小説の書かれたのは、1987年。1989年のベルリンの壁の崩壊の直前になる。その時代において、小説の時代は、1969年になっている。「1968」の年の翌年である。だが、この小説には、表面的には、政治的なことばはまったくといっていいほど見られない。時折、時代的背景としてちょっと出てくるにすぎない。

この時代に、この時代の物語として、ここまで非政治的な小説を書いていることに、まずおどろいてしまうというのが、今の時代になってからの感想でもある。

この小説は、主人公「僕」の意識の流れを追っている。主人公の意識によって、世界が転変する。主人公の意識に投影したものとしての世界がある。そして、その世界は、どこか歪んでいるようでもある。あるいは、意識のフィルター、あるいは、プリズムを通して変換したような、また、反転したような、奇妙な世界像といっていいだろうか。

すくなくとも、リアリズムの小説ではない。そのように思って読むと、退屈な話に終始している。そうではなく、あくまでも主人公の意識に反映した世界の像が、次から次へと転換していくと理解して読むべきなのだと感じる。

その描き出す世界像は、文学的である。なるほどこの小説が今の時代にいたるまで読み継がれてきているベストセラーである理由が納得される。

追記 2019-04-27
この続きは、
やまもも書斎記 2019年4月27日
『ノルウェイの森』(下)村上春樹
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/04/27/9065024