『夜と霧の隅で』北杜夫2019-09-02

2019-09-02 當山日出夫(とうやまひでお)

夜と霧の墨で

北杜夫.『夜と霧の隅で』(新潮文庫).1963(2013.改版).新潮社
https://www.shinchosha.co.jp/book/113101/

続きである。
やまもも書斎記 2019年8月22日
『幽霊』北杜夫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/08/22/9144039

北杜夫の主な作品は、高校生ぐらいまでの間にだいたい読んできたのだが、実は、この本は未読の本であった。半世紀以上前の本を、今でも、改版して新しい本で新潮文庫で売っているのはうれしい。

読んで見て思うことは次の二点ぐらいだろうか。

第一に、叙情性である。

この作品集は、北杜夫の初期の作品をあつめてあるのだが、どの作品にも、どこからし叙情性がある。これらの作品を読んで感じるような叙情性が、今の日本の文学がなくしてしまったものかもしれないと思いながら読んだ。

第二に、ヒューマニズムである。

この作品集のメインの作品は、表題作の「夜と霧の隅で」である。これは、第二次大戦中のナチスのもとで、精神病院で、行われた安死術と、それに、なんとかして抵抗しようする医師の姿を描いている。こう書いてしまうと、いかにも深刻なテーマである。無論、深刻なテーマにはちがいないのであるが、それを、北杜夫は、どことなしユーモアをもって描いている。深刻な状況におかれた人間が、大真面目になるほど、それはどこかしら滑稽さをおびてくる。そこのところを、作者は、距離をもって描いている。そして、その根底にあるのは、筆者の精神病に対する感覚……それをヒューマニズムと言っておくが……である。だが、それも、見方によっては、どことなしかユーモラスでもある。

以上の二点が、この『夜と霧の隅で』を読んで感じるところである。

この作品、芥川賞の受賞作である。だが、さて、今、芥川賞の受賞作で文庫本で読める作品がどれほどあるだろうか。ちゃんと調べたことはないのだが、かなり少ないかもしれない。時間がたってみれば、芥川賞をとったかどうかなど、文学史のなかでは、ささいなことなのかとも思う。

次は、『輝ける碧き空の下で』である。

追記 2019-09-06
この続きは、
やまもも書斎記 2019年9月6日
『輝ける碧き空の下で』北杜夫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/09/06/9149931

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