『どうにもとまらない歌謡曲』舌津智之/ちくま文庫 ― 2022-07-16
2022年7月16日 當山日出夫

舌津智之.『どうにもとまらない歌謡曲-七〇年代のジェンダー-』(ちくま文庫).筑摩書房.2022(晶文社.2002)
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480438218/
二〇〇二年に晶文社から刊行。それに、加筆訂正を加えてちくま文庫で出したものである。
タイトルにあるとおり一九七〇年代の歌謡曲を主にあつかっている。私は、一九五五年(昭和三〇)の生まれであるので、七〇年代の歌謡曲というと、そのほとんどをリアルタイムで知っている。テレビで見たり、ラジオで聞いたりである。
読んで思うことは多くあるが、二点ばかり書いておく。
第一に、ジェンダー論として。
タイトルのとおり、この本は、七〇年代の歌謡曲をジェンダーの視点、方法論で分析している。読んでなるほどと思うところが多い。(ただ、いくぶん牽強付会、そこまで深読みしなくてもいいのではと感じるところが、まったく無いわけではないのだが。)が、ともかく、文化的な事象をジェンダー論で分析するとどういうことが見えてくるのか、そのお手本のようなところがある。これは、これとして、非常に興味深い。
第二に、日本語学の観点から。
日本語学の分野で、特に計量国語学では、歌謡曲の歌詞分析というテーマが伝統的にある。とはいえ、最近の研究動向にはうといので、近年の研究の傾向がどうなっているのかは、知らないのだが。
この本で指摘してあることのいくつかは、日本語学の観点か見て重要である。歌謡曲の歌詞の表記論は、耳で聴くことがメインであるはずの歌謡曲が、なぜ表記にこだわりを見せるのか、面白い。また、歌謡曲のメロディと日本語のアクセントのことについては、日本語論としても考えるべき重要なテーマである。
以上の二点のことを思ってみる。
ともあれ、この本は、七〇年代歌謡曲ということに範囲を絞ってはいるのだが、「歌謡文学」の研究という方向、あるいは、その研究の可能性を示している。ポピュラーな芸能であることもあって、歌謡曲は、時代の流れのなかにあり、そして、時としては時代の行く末を暗示するようなところもある。この本を読むと、まさに二〇世紀になって日本の社会のなかでおこっている様々なことが、七〇年代にさかのぼって考えることができることに気づかされる。「歌謡文学」というこれからの新しい研究テーマを示しているということでも、この本は非常に価値がある。
2022年6月15日記
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480438218/
二〇〇二年に晶文社から刊行。それに、加筆訂正を加えてちくま文庫で出したものである。
タイトルにあるとおり一九七〇年代の歌謡曲を主にあつかっている。私は、一九五五年(昭和三〇)の生まれであるので、七〇年代の歌謡曲というと、そのほとんどをリアルタイムで知っている。テレビで見たり、ラジオで聞いたりである。
読んで思うことは多くあるが、二点ばかり書いておく。
第一に、ジェンダー論として。
タイトルのとおり、この本は、七〇年代の歌謡曲をジェンダーの視点、方法論で分析している。読んでなるほどと思うところが多い。(ただ、いくぶん牽強付会、そこまで深読みしなくてもいいのではと感じるところが、まったく無いわけではないのだが。)が、ともかく、文化的な事象をジェンダー論で分析するとどういうことが見えてくるのか、そのお手本のようなところがある。これは、これとして、非常に興味深い。
第二に、日本語学の観点から。
日本語学の分野で、特に計量国語学では、歌謡曲の歌詞分析というテーマが伝統的にある。とはいえ、最近の研究動向にはうといので、近年の研究の傾向がどうなっているのかは、知らないのだが。
この本で指摘してあることのいくつかは、日本語学の観点か見て重要である。歌謡曲の歌詞の表記論は、耳で聴くことがメインであるはずの歌謡曲が、なぜ表記にこだわりを見せるのか、面白い。また、歌謡曲のメロディと日本語のアクセントのことについては、日本語論としても考えるべき重要なテーマである。
以上の二点のことを思ってみる。
ともあれ、この本は、七〇年代歌謡曲ということに範囲を絞ってはいるのだが、「歌謡文学」の研究という方向、あるいは、その研究の可能性を示している。ポピュラーな芸能であることもあって、歌謡曲は、時代の流れのなかにあり、そして、時としては時代の行く末を暗示するようなところもある。この本を読むと、まさに二〇世紀になって日本の社会のなかでおこっている様々なことが、七〇年代にさかのぼって考えることができることに気づかされる。「歌謡文学」というこれからの新しい研究テーマを示しているということでも、この本は非常に価値がある。
2022年6月15日記
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