『光る君へ』「君を置きて」 ― 2024-10-21
2024年10月21日 當山日出夫
『光る君へ』「君を置きて」
この回のはじめのところで読まれていたのは、「藤裏葉」である。つまりは、「若菜」の直前の巻である。ということは、まだ「若菜」は書かれていない段階、といっていいのだろう。
和泉式部や赤染衛門は、罪の無い恋などない……ということを言っていた。おそらく、これは「若菜」における、女三宮をめぐるスキャンダルの伏線ということになるのかなと思う。ここで、まひろ/藤式部は、いったい何を思って聞いていたのだろうか。
「新楽府」が出てきていた。そのなかでも「百錬鏡」についてである。平安時代、『白氏文集』が王朝貴族の間で広く読まれたことは、いうまでもないことであるし、なかでも巻三・四の「新楽府」は愛好された。ただ、これは、風諭詩としてであるので、王朝貴族に好まれた閑適詩ではない。
占いのシーンがあった。平安時代の貴族にとって占いということは、生活のなかに浸透してことなのだろうと思われる。「方違い」など、現代の我々からすれば迷信にすぎないのだが、その当時の人びとは信じていたことになる。だからこそ、「空蝉」のような話しが生まれることになる。
崩御の卦が出て、実際に崩御となったわけであるが、この時代の王朝貴族たちにとっては、本当に信じるものだったといっていいのだろう。
道長は、独裁者としては描かれていない。若いときからの友達というか盟友というか、行成たちと折に触れて相談している。内々で根回しをして話を進めておくという感じであろうか。しかし、かなり強引ではあるが。このあたり、平安時代の政治史の分野では、道長の権力というのは、どのように考えられているのだろうか。
一条天皇は、摂関政治……天皇の外戚が実権を得ること……を認めている。王朝の政治、天皇の存在は、有力な貴族のバックアップなしではなりたたないということを、身をもって感じている。次の東宮は、敦成親王……彰子が母であり、その父は道長である……とならざるをえないことを、受け入れることになる。
彰子と道長、それから、まひろ/藤式部のシーンは、微妙に画面が揺れていた。たぶん、手持ちカメラ撮影ということなのだろうが、登場人物のこころの揺らぎや葛藤を映像としてうまく表していたと感じる。
一条天皇から三条天皇への践祚のとき、三種の神器だろうと思うが、これも移動していた。実際の践祚のありさまはどうだったのだろうか。
まあ、ドラマだからしかたないことなのだが、天皇の名前として「一条天皇」というのは、その崩御の後におくりなを決めてからのことになるはずである。リアルタイムのこととして、一条天皇が崩御したと語るのは、少し違和感がある。しかし、ここで一条天皇といっておかないと、ドラマの進行としては、説明のためにかなりややこしいことになる。
まひろが自分の局で物語を書いているシーンは、どうだろうか。今回は夜のシーンで、正式の女房装束ではなく、すこしカジュアルな恰好ではあったが。自分の局で物語を書くときは、もうちょっとリラックスした恰好であった方がいいかもしれない。また、以前にも書いたが、その書いている紙に、推敲の後がまったく無いのは不自然である。『源氏物語』の文章は、今の普通の活字校訂本でも、句点「。」から次の句点「。」まで、一頁ぐらいある場合もある。そのように息の長い文章を、論理的な無理なく書き上げるというのは、非常に高度な作業になる。推敲に推敲を重ねて、そうなったと思うのだが、実際はどうだったろうか。『源氏物語』の文章は、目で見て頭で考えて分かる文章である。この意味では、『枕草子』とも、あるいは、『伊勢物語』などとも違っている。目で読む文章の密度というかレベルが違うと感じる。
娘の賢子が、街でドロボーに出会って、それを、若者に助けられる。双寿丸と言っていた。武士、ということになる。この時代、平安時代の後期になれば、武士というものが生まれてきたころになるから、平安京の街にいてもおかしくはないかもしれない。
それにしても、平安時代の一般庶民の人びとの暮らしはどんなだったのだろうか。貴族については、史料(日記や絵画資料)があるので、想像できなくもない。だからこそ、このドラマのような映像を作ることができる。しかし、一般庶民の階層については、よくわからないというべきだろう。
賢子が瓜を商人から買っていた。しかし、貨幣のやりとりは出てきていない。この時代は、物の売買は実際はどうだったのだろうか。乙丸の持っていた野菜との物々交換のようだったが。
賢子が自分の家で板の間に正座しているのは、やはりなんとなく違和感がある。
来週は、続きである。『光る君へ』は、オリンピックには負けたけれど、選挙には負けずに放送することになる。
2024年10月20日記
『光る君へ』「君を置きて」
この回のはじめのところで読まれていたのは、「藤裏葉」である。つまりは、「若菜」の直前の巻である。ということは、まだ「若菜」は書かれていない段階、といっていいのだろう。
和泉式部や赤染衛門は、罪の無い恋などない……ということを言っていた。おそらく、これは「若菜」における、女三宮をめぐるスキャンダルの伏線ということになるのかなと思う。ここで、まひろ/藤式部は、いったい何を思って聞いていたのだろうか。
「新楽府」が出てきていた。そのなかでも「百錬鏡」についてである。平安時代、『白氏文集』が王朝貴族の間で広く読まれたことは、いうまでもないことであるし、なかでも巻三・四の「新楽府」は愛好された。ただ、これは、風諭詩としてであるので、王朝貴族に好まれた閑適詩ではない。
占いのシーンがあった。平安時代の貴族にとって占いということは、生活のなかに浸透してことなのだろうと思われる。「方違い」など、現代の我々からすれば迷信にすぎないのだが、その当時の人びとは信じていたことになる。だからこそ、「空蝉」のような話しが生まれることになる。
崩御の卦が出て、実際に崩御となったわけであるが、この時代の王朝貴族たちにとっては、本当に信じるものだったといっていいのだろう。
道長は、独裁者としては描かれていない。若いときからの友達というか盟友というか、行成たちと折に触れて相談している。内々で根回しをして話を進めておくという感じであろうか。しかし、かなり強引ではあるが。このあたり、平安時代の政治史の分野では、道長の権力というのは、どのように考えられているのだろうか。
一条天皇は、摂関政治……天皇の外戚が実権を得ること……を認めている。王朝の政治、天皇の存在は、有力な貴族のバックアップなしではなりたたないということを、身をもって感じている。次の東宮は、敦成親王……彰子が母であり、その父は道長である……とならざるをえないことを、受け入れることになる。
彰子と道長、それから、まひろ/藤式部のシーンは、微妙に画面が揺れていた。たぶん、手持ちカメラ撮影ということなのだろうが、登場人物のこころの揺らぎや葛藤を映像としてうまく表していたと感じる。
一条天皇から三条天皇への践祚のとき、三種の神器だろうと思うが、これも移動していた。実際の践祚のありさまはどうだったのだろうか。
まあ、ドラマだからしかたないことなのだが、天皇の名前として「一条天皇」というのは、その崩御の後におくりなを決めてからのことになるはずである。リアルタイムのこととして、一条天皇が崩御したと語るのは、少し違和感がある。しかし、ここで一条天皇といっておかないと、ドラマの進行としては、説明のためにかなりややこしいことになる。
まひろが自分の局で物語を書いているシーンは、どうだろうか。今回は夜のシーンで、正式の女房装束ではなく、すこしカジュアルな恰好ではあったが。自分の局で物語を書くときは、もうちょっとリラックスした恰好であった方がいいかもしれない。また、以前にも書いたが、その書いている紙に、推敲の後がまったく無いのは不自然である。『源氏物語』の文章は、今の普通の活字校訂本でも、句点「。」から次の句点「。」まで、一頁ぐらいある場合もある。そのように息の長い文章を、論理的な無理なく書き上げるというのは、非常に高度な作業になる。推敲に推敲を重ねて、そうなったと思うのだが、実際はどうだったろうか。『源氏物語』の文章は、目で見て頭で考えて分かる文章である。この意味では、『枕草子』とも、あるいは、『伊勢物語』などとも違っている。目で読む文章の密度というかレベルが違うと感じる。
娘の賢子が、街でドロボーに出会って、それを、若者に助けられる。双寿丸と言っていた。武士、ということになる。この時代、平安時代の後期になれば、武士というものが生まれてきたころになるから、平安京の街にいてもおかしくはないかもしれない。
それにしても、平安時代の一般庶民の人びとの暮らしはどんなだったのだろうか。貴族については、史料(日記や絵画資料)があるので、想像できなくもない。だからこそ、このドラマのような映像を作ることができる。しかし、一般庶民の階層については、よくわからないというべきだろう。
賢子が瓜を商人から買っていた。しかし、貨幣のやりとりは出てきていない。この時代は、物の売買は実際はどうだったのだろうか。乙丸の持っていた野菜との物々交換のようだったが。
賢子が自分の家で板の間に正座しているのは、やはりなんとなく違和感がある。
来週は、続きである。『光る君へ』は、オリンピックには負けたけれど、選挙には負けずに放送することになる。
2024年10月20日記
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