『夜明け前』(第二部)(上)島崎藤村2018-03-05

2018-03-05 當山日出夫(とうやまひでお)

夜明け前(第二部)上

島崎藤村.『夜明け前』第二部(上)(新潮文庫).新潮社.1955(2012.改版)
http://www.shinchosha.co.jp/book/105510/

続きである。
やまもも書斎記 2018年3月1日
『夜明け前』(第一部)(下)島崎藤村
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/03/01/8796037

第二部を読み始めて、ちょっととまどいを感じる。これまでこの小説は、基本的に信州馬籠の本陣にいる青山半蔵の視点を大きくはずれることがなかった。しかし、第二部になって、いきなり幕末の外交からはじまる。いやそれにさかのぼって江戸時代の外交(オランダとの)の話しになる。

これはどういうことなのだろう。

思うに……昭和の始めに書かれたこの小説『夜明け前』、その作者である島崎藤村は明治5年の生まれ。その父をモデルに描いている。このような時代設定のもとでは、幕末にアメリカが日本にやってきた、その前にオランダとつきあいがあった、ということは、自らの記憶と体験の連続のうちにあることなのであろう。

それは、例えば、今日、21世紀になって、戦後70年を考えるとき、戦前の歴史から考え直すことが求められるようなことかもしれない。昭和20年で区切りをつけて、というわけにはいかない。

そのような仕事の例としては、

やまもも書斎記 2016年9月12日
加藤陽子『戦争まで-歴史を決めた交渉と日本の失敗-』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/09/12/8182853

やまもも書斎記 2016年9月16日
半藤一利『B面昭和史 1926-1945』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/09/16/8191044

のような本がある。戦前の日本の歴史、世相をかえりみるところから、現代の日本のあり方を考えている仕事である。

このような意味において、維新から60年ほどの時間を経た時点で、明治維新のことを考えるのに、それ以前の江戸時代のことから話しを説き起こすのは自然なことだったのだろう。

このように思わないと、第二部になって、いきなり江戸時代からの対外政策、幕末における開国の事情、このようなことについて、いきなり「歴史」の話しになってしまうことが理解できない。この時代(昭和のはじめ)の人びとにとって、江戸時代のことも、まだ人びとの体験の延長にある「歴史」であったことになる。

そして、この第二部の上で描かれるのは、明治になって、版籍奉還から廃藩置県ぐらいのできごと。

戊辰戦争の東征軍は、馬籠を通過している。そこで戦いがあったということではないが、戊辰戦争を肌で感じるところがあった。

江戸時代、尾州家の支配下あった馬籠の宿場も、維新の影響を被ることになる。具体的には、まず、時代の変化にしたがって物流が変わる。宿場ならではのこととして、日常生活のなかで実感するようになる。本陣という制度もなくなってしまう。関所もなくなる。木曽路の宿場として、明治なってからの変革の様子が描写されていく。

廃藩置県となり、馬籠のあたりは、名古屋県を経て、筑摩県になる。

これらの出来事が、青山半蔵の視点で語られる。前にも書いたとおり、明治維新という出来事を、長州でも薩摩でも京都でも江戸でもない信州馬籠を舞台にして描いた作品である。また、その社会的地位も、武士でも公家でもない、宿場の本陣という立場、そして、平田国学の徒であるという設定から見ている。作者は、この作品の中で、「草叢」の語をもちいている。「草莽」と言い換えてもいいのかもしれない。

すくなくとも、この巻(第二部の上)までを読むかぎりでは、王政復古ということは、青山半蔵の理想とする古代に立ち返ることにつながっている。

いわゆる五箇条の御誓文についても言及がある。馬籠にいる青山半蔵のもとにも、このことがつたわっている。(このあたり、江戸時代から近代にかけてのメディア史として興味深いところでもある。)

この巻(第二部の上)の終わりで、子どもが生まれている。作者・藤村のモデルである。いよいよ、明治の文明開化、近代化というところに、話しはすすんでいくことになる。馬籠の人びとにとって明治の近代化とはどんなものであったのか、続きを読むことにしよう。

追記 2018-03-09
この続きは、
やまもも書斎記 2018年3月9日
『夜明け前』(第二部)(下)島崎藤村
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/03/09/8800299

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