『貴婦人Aの蘇生』小川洋子2021-03-25

2021-03-25 當山日出夫(とうやまひでお)

貴婦人Aの蘇生

小川洋子.『貴婦人Aの蘇生』(朝日文庫).朝日新聞出版.2005(朝日新聞社.2002)
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=7109

続きである。
やまもも書斎記 2021年3月22日
『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/03/22/9359343

タイトルにある「A」は、アナスタシアである。ロシア出身の貴婦人、いわずとしれたロマノフ王朝の王女である。史実としては、ロシア革命のときに、殺されてしまったようなのだが、しかし、文学などの世界では、生きのびている。どこかしら謎めいた高貴なロシア人女性の正体は……ということで、多くの作品に登場していたかと記憶する。

この文庫版の解説を書いているのは、藤森照信。その解説にあるとおり、小川洋子の文章には透明感がある。決して血湧き肉躍るような文章ではない。そして、あの世とこの世、二つの世界にまたがっているような感覚になる。さらに、小川洋子の文章は視覚的である。このような指摘については、私は深く同意するところがある。

動物の剥製にかこまれてすごす伯母さん。その住まいする洋館。そういえば、小川洋子の作品には、建築として「洋館」が多く登場するように思える。現代日本において、洋館は、どこかエキゾチックであり、日常とは切り離された異次元の世界への通路のごとくである。その洋館を舞台にすることで、この小説は、不思議な存在感がある。

小川洋子の作品のなかにどう位置づけることになるのか、私には判然としないところもあるのだが、読後には充足感の残る作品である。つづけて、小川洋子の作品を読んでいこうと思う。

2021年3月23日記

追記 2021-04-12
この続きは、
やまもも書斎記 2021年4月12日
『夜明けの縁をさ迷う人々』小川洋子
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/04/12/9366470

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