「禁じられたモスクワ 経済制裁下の市民生活」2025-01-11

2025年1月11日 當山日出夫

BS世界のドキュメンタリー 「禁じられたモスクワ 経済制裁下の市民生活」

二〇二四年、フランスの制作。

今のロシアの様子をとらえたドキュメンタリーとしては、貴重なものだろう。日本のメディアは、もうロシアやモスクワからの報告を止めてしまったかのようである。よほど、大きな事件でもないかぎり、モスクワからの映像がテレビで映ることはない。同じように、ウクライナについても、報道は減っている。

見始めて、モスクワの富裕層が、ヌードデッサンの会で楽しんでいる場面があって、ちょっと驚いた。裸のモデルの女性がいて、それをスケッチブックに描いている。日本でも、昔は、そのような形式の店があったが、実質的に性風俗業であった。だが、モスクワの場合は、お金持ちの男性も女性も、楽しんでいる、という雰囲気である。

ロシアに経済制裁が科されていることになるのだが、その効果は、ほとんどないようである。少なくとも、モスクワの一般市民や、富裕層についてみれば、以前と同じ生活を送っていることになる。ただ、密輸(とは番組のなかでは言っていなかったが)の西側のブランド品は、高騰しているようだが。

レストランでも、食材やワインなどが潤沢にはいってきている。そのお客としては、中国人と言っていたが、中国人富裕層がモスクワに遊びに行っていても、まあ、今の世界は、そういう時代なんだろうなあ、と思うだけのことである。

ロシアにはロシアの民主主義のかたちがある。おそらく、プーチンが大統領に圧倒的な得票率で当選しても、それはそれなりに理屈のとおった感覚なのだろう。これを、不正選挙と感じるのは、欧米などの感じ方ということになるだろう。少なくとも、ソ連が崩壊してから、プーチンが人びとの生活を立て直してきた、というのは、生活に根ざした実感なのだろう。

もちろん、情報は統制されている。政府や軍に表立って反対できるということではない。人びとの口は硬い。だからといって、それで不幸な生活であるかというと、かならずしもそうとは言い切れないかもしれない。

ウクライナとの戦線をロシア側から取材して映像というのは、あるいは始めて見たかもしれない。特に目新しいものが映っていたということではない。登場していたのは、正規の軍ではなく、民間の軍事会社。ワグネルはなくなったようだが、それ以外の民間軍事会社が、それにとってかわっているということなのだろう。囚人を使っているという。

西欧のブランド企業の多くが、ロシアでの営業は止めているが、元の店舗のあった建物は維持し続けている。家賃を払い続けていることになる。休業するという体裁である。これは、いずれ、制裁解除なとなったときに、ビジネスを再開するために残してあるものになる。

さまざまな物資が、グレーマーケット、並行輸入、つまり、第三国を経由してロシアにもたらされている。海産物に言及したとき、なかに日本の名前も出てきていたが、どのようなものがロシアに、第三国経由で輸出されていることになるのだろうか。それが、どの国であっても、別におどろかないけれど。

番組のなかで言っていることとしては、ロシアの人びとは、戦争を肯定的に考えているようである。フランスの会社の取材であるということを意識してのことにはちがいないだろうが。

国際秩序という観点から考えれば、どうみても、ロシアが悪い。この戦争をロシアの勝利で終わらせてはならない。これは、多くの専門家の言っていることである。

だが、ロシアにはロシアの言い分があり、ロシア人にはロシア人としての、戦争のとらえ方がある、ということは理解しておいた方がいい。ロシア人だからといって、別に鬼畜であるわけではない。

プーチンも、ロシアという背景があって、それなりに合理的に判断してのことだったということは、いっていいだろう。(それは、世界の多くの国にとって、受け入れがたいものではあっても。)

映像を見ていると、画面に映っている自動車がどれも高級なものばかり、という印象であった。おそらくは、そのような地域を選んでの撮影だったということなのかもしれない。

どうでもいいようなことかもしれないが、息子を戦争でなくした女性がPCで、かつての映像を見ていたが、Windowsマシンで、グーグルクロームを使っているようだった。こういうのは、戦争の影響とは関係なく、もはやグローバルなことがらとして見なければならない。

2025年1月9日記

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