「飛翔体」政府と国民のコミュニケーション2009-04-12

2009/04/12 當山日出夫

小形さんのご指摘をうけて、現時点での、私の思うところを整理すると、

1.政府としては、「ミサイル」とも「人工衛星」とも、断定は避けた。これ以外の用語を必要とした。

2.古くから使用されていたことばとして、「飛翔体」がある。これを使うことにした。

3.だが、「翔」の字は、現行の常用漢字表に無い字である。このことに、政府としては無関心であった。

4.あるいは、知ってはいたが、特に難解な字ではないと判断して、強いてつかった。「飛しょう体」とはしなかった。

3にしても4にしても、現行の常用漢字表が、確信犯的に無視されたことは確か。この意味では、まさに、小形さんのおっしゃるとおり。

ところで、「新常用漢字表(仮称)」では、「銑」の字が無くなる予定。そうなると、鉄鋼業関係で、かなり困ることになるはず。これは、日常的につかわない専門用語ということになるのか。だから、別に、無くしてもかまわない。この論法では、「飛翔体」も使ってもかまわない、ということになる。

要するに、政府自らが、「常用漢字」を守る気はない、ということになる。「新常用漢字」がコミュニケーション重視であるならば、政府発表の用語・文字こそ、ルールにしたがうべきである。

當山日出夫(とうやまひでお)

むかしの「飛翔体」2009-04-11

2009/04/11 當山日出夫

すでに御存知の方も多いと思うが、

日本語練習中
1993年5月6月の「飛翔」
http://d.hatena.ne.jp/uakira/20090410

「飛翔体」の語は、以前からつかわれていた。今回の件は、やはり、政治的な意図があってのことと、私は考える。

「常用漢字」に無いから使ってはいけない、とは思わない。そうではなく、政治的な「ことば」とその表記について、気になったということである。私の立場としては。

この場合は、やむを得ざる選択であろう。だが、公的な文書である以上は、常用漢字への配慮はあってしかるべき。ルビをつける、仮名にするなど。「ミサイル」でも「人工衛星」でもないとすると、他にどのような「ことば」があるか。まあ、その後の朝日新聞など見ると、平然と「ミサイル」と書いている。

當山日出夫(とうやまひでお)

「飛翔体」は常用漢字で書けないこと2009-04-08

2009/04/08 當山日出夫

小熊さんのコメントを見て、すこし。

たしかに、おがたさんの「もじのなまえ」のコメントやSBMなど見ますと、特定の業界・専門領域では、既に周知の語であった、ということは、わかります。

ただ、私が、気にしているのは、突然「飛翔体」に名称が変わったこと、です。それまでの新聞やテレビなどの報道では、ミサイル、テポドン、などといっていたものが、政府発表で、突然、表に出てきてしまった。だからこそ、当日のテレビ報道のテロップなどでも、めまぐるしく表記が変わって揺れ動いた、と思いまます。はじめから、政府の用語としては「飛翔体」と称するということが判明していたならば、混乱は無かったでしょう。

たまたま、その時刻(日曜日の昼間)テレビを見ていて、各局の対応がまちまちであったこと、同じ局でも揺れ動いたことに(文字のことを考えている人間としては)目がいってしまった、という流れと思っていただければいいでしょう。この時間帯の全部の報道が録画してあると検証できるのですが。

固有名詞ではなく、普通の語(?)として、常用漢字では書けない語が、出てきたとき、どう対応するか、です。まあ、目安なんだから、「飛翔体」と全部漢字で書いてもいいわけですが、朝日新聞などは、ルビつきの表記にしています。これは、やはり、常用漢字(現行)に配慮した結果というべきででしょう。

當山日出夫(とうやまひでお)

「広場の文字/ことば」としての「翔」2009-04-08

2009/04/08 當山日出夫

ともあれ、平和な日本の状態にもどって、すこし考える。

おがたさんの「もじのなまえ」で
ロケットでもミサイルでもなく――再び、なぜ「飛翔体」なのか
http://d.hatena.ne.jp/ogwata/20090407/p1

たぶん、私の考えていることと、ほぼ重なるかなと(勝手に思っている)。

「飛翔体」の語は、防衛省関係では、すでに馴染みのある語であるので、政府をこれをつかった。しかし、事前には、使用していない(?)。すくなくとも、ニュースなどでながれていたことばは、「ミサイル」「テポドン」であった。

あるいは、政治的に、問題の無いことばとしてつかった。「ミサイル」か「人工衛星」か不明な段階で、(発射されたまさにその時点において)不明なものを、断定的に表現することは避けた。その結果、「飛翔体」になった。

ミサイル・ロケットなど、ともかく空に飛んで行くものを「飛翔体」というのなら、事前にその用語の説明があった方がよかった。また、事前に、マスコミにも周知しておくべきであった。

今回の件で、「飛翔体」ということばも、「広場のことば/文字」に入ったと考えてもいいだろう。次に、使われるときは、「飛翔体=ミサイル」の意味で、多くの人はつかうことが予想される。

「広場の文字/ことば」であり、可能な限り政治的に中立的であり、という文字は、どのようなものになるのか。というあたりから、「翔」は考え直してみたい。

なお、「新常用漢字表(仮称)」で、「楷書」の「楷」が書けない問題などについては、追って別のところで。

當山日出夫(とうやまひでお)

飛翔体:本当の緊急時ならまず「わかりやすさ」が優先2009-04-07

2009/04/07 當山日出夫

まあ、「飛翔体」の用語・用字をめぐって、議論できるぐらい、日本は平和なのである。漱石『猫』の家のようである。

ただ、言っておかなければならないと思うのは、本当の緊急時=「飛翔体」が攻撃ミサイルであった場合、政府は同じように「飛翔体」と言うだろうか、ということ。本当の緊急時に、何よりも優先するのは、「わかりやすさ」。

今回、たまたま、北朝鮮による、事前の予告もあり、衛星写真が報道でながれたりして、あらかじめ予想できていた。不慮の事態、たとえば、二段目が飛ばなくて日本国内に落ちるとか、こんなことが無かったからいいようなものである。

普通の人々の分かることばで、緊急に、ことを告げなければならない。そのときには、常用漢字の制限とか、国際政治的な配慮とかは、無用になる。まず、わかりやすいこと。これが、最優先。

日本政府は、この「わかりやすさ」ということに配慮したであろうか。

そのうえで、特に緊急の危機になることは無いと予想していたならば、「飛翔体」の用語は適切であったかどうか。用語は、事前に政府内で決まっていたはずである。また、それを報道する新聞などは、どのような用語・用字で対応すべきか、というあたりのことの問題になるかな、と思う。

テレビの報道での表記の混乱ぶりをみると、報道関係もあまり考えていなかったかと思われる。

當山日出夫(とうやまひでお)

「飛翔体」は政府用語ということで落着か2009-04-06

2009/04/06 當山日出夫

ざっと、オンラインで、新聞社のHPなど見てまわる。あらたにす。

朝日新聞は、「飛翔体(ひしょうたい)」と、して使用。ただし、これは、政府発表を伝えるかたちで。実質的な記事の中身は、ミサイル。

読売新聞は、最初から、ミサイル(テポドン2)。日経も、ミサイル。

一般的な認識としては、「ミサイル」。ただ、政府の発表の用語としては、「飛翔体」。「翔」は常用漢字にないので、ルビで処理。「飛しょう体」では、ちょっとみっともない、いや、軍事的な脅威に乏しい……というところか。

當山日出夫(とうやまひでお)

消えた「ミサイル」2009-04-06

2009/04/06 當山日出夫

おがたさんの「もじのなまえ」に、異常なぐらいSBMがついている。
http://d.hatena.ne.jp/ogwata/20090405

いろいろ議論はあるとおもうが、私の見るところでは、
・これまで、さんざん、マスコミなどの報道では、「ミサイル」「テポドン」と言ってきた。
・それが、発射された瞬間から、「飛翔体」の用語に変わった。今朝のHNKのニュースでも、「発射」という語はつかっても、「何を」という部分は、あいまいなままで報じている。

この間の、ことばの変化……「敗退」を「転進」というか、「侵略」を「侵攻」というか……これ自体にとまどいを感じる。強いていうならば、こんなふうに用語を変えてしまうのは、政治的にまずいとも思う。北朝鮮の言い分(人工衛星)は、それはそれとして、日本にとっては、ミサイル以外の何物でもない以上、堂々と、「ミサイル」と称し続けるべきであろう。

また、観点は変わるが、ごく普通の用語のようにつかった「飛翔体」の「翔」が、常用漢字には無い、ということも、問題のひとつ。これが、軍事的には一般的な用語であるならば、はじめから、「飛翔体」と言えばいい。常用漢字に配慮するならば、「飛しょう体」「飛翔(しょう)体」などと書く他はない。

當山日出夫(とうやまひでお)

NHKも見はなした常用漢字「翔」2009-04-05

2009/04/05 當山日出夫

7時のNHKニュースでも、「飛翔体」の語をつかっている(ルビなし)。画面で見ると、読売新聞の号外は、「ミサイル」。ともあれ、この件によって、「飛翔体」という語の表記が、日本語に定着するかどうか。事件のインパクトが強いだけに、今後のゆくえが気になる。

しかし、NHKの校閲は何をしているのだろう。放送の文字は、「常用漢字」を目安にするはずではないのか。せめて、ルビぐらいつけたらと思う。

NHKも見はなした「常用漢字」、ということになる。

當山日出夫(とうやまひでお)

追記

「飛翔体」は、防衛(軍事)関係の専門用語であるらしい。

「もじのなまえ」のコメント
http://d.hatena.ne.jp/ogwata/20090405

それから、「日本語練習中」
http://d.hatena.ne.jp/uakira/20090405

當山日出夫(とうやまひでお)

「飛翔体」考2009-04-05

2009/04/05 當山日出夫

だいたい、ことの経緯は、「明窓浄机」の方に書いておいた。また、おがたさんの「もじのなまえ」でも言及がある。

明窓浄机
http://d.hatena.ne.jp/YAMAMOMO/20090405

もじのなまえ
http://d.hatena.ne.jp/ogwata/20090405/p1

いったい、日本国政府は何をかんがえていたのか?!

ミサイルとも、人工衛星とも、確認できない段階で、断定的な表現は避けた。この政治的配慮については、わからなくもない。しかし、そうであるならば、北朝鮮が、「ミサイル/人工衛星/テポドン」の発射を予告した時点において、その時に、どう日本国政府として発表するか、用語をかんがえておくべきである。

そして、もし、考えた結果が「飛翔体」であったとするならば、誰が、「新常用漢字表(仮称)」試案、にまともに取り組もうとするだろうか。他にいくらでも表現の仕方があるだろう。やや長いが「ミサイルと思われる飛行物体」でもいいではないか。

北朝鮮のミサイル発射問題とは別に、日本国政府としての、文字使用の感覚に怒りを感じる。本当に緊急事態であるならば、やむをえない。だが、今回は、十分に、時間的余裕があったはず。いったい日本国政府として、何を考えていたのか。

少なくとも、今回のことがあった以上、防衛省としては(というべきか)は、「翔」の時を「新常用漢字表(仮称)」に、入れることを求めるべきだ。また、文化庁としても、この字については、緊急に、「翔」を追加した改訂案を出す必要があるだろう。でなければ、行政としての一貫性は保てない。「新常用漢字表(仮称)」の説得力もない。

當山日出夫(とうやまひでお)

漢字で書かなければならないということ2009-04-05

2009/04/02 當山日出夫

ARGの岡本さんが、紹介していた本。

http://d.hatena.ne.jp/arg/20090327/1238108166

牟田静香.『人が集まる! 行列ができる! 講座、イベントの作り方』(講談社+α新書).講談社.2007

この本は、これとして、非常に有益な内容なのであるが、気になったのは、文字についての以下の箇所。別に、ARGとは関係ないのであるが。

>>>>>
区報など行政の広報では、何日もかけて考えたタイトルを簡単に変えて載せてしまうので要注意です。今は方針が変わりましたが、当時は「『ココロ』としてくれ」と言っても、「漢字で書けるものはカタカナではダメだ!」ということでした。『お父さんと一緒』も本当は『子育て応援団@エセナ 「おとうさんといっしょ!」』だったのに、最初のフレーズは削除され、「おとうさんといっしょ」はすべて漢字になっていました。
p.103
<<<<<

漢字で書かないといけない、いかにも役人らしい発想である。

いまでは、そうでもないらしい。しかし、そんなに杓子定規にならなくてもよいように思える。小学校なら、習った漢字(教育漢字)は、漢字で書きなさい、という指導もあり得る。だが、日本語一般の文字使用は、もっと柔軟な発想であってよい。

漢字で書くということよりも、より多くの人をあつめる、ということの方が大事であるはず。

また、現行の「常用漢字」も、あくまでも「目安」であるのだから。

當山日出夫(とうやまひでお)