斎藤美奈子『学校が教えないほんとうの政治の話』2016-09-03

2016-09-03 當山日出夫

斎藤美奈子.『学校が教えないほんとうの政治の話』(ちくまプリマー新書).筑摩書房.2016
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480689665/

選挙権の年齢が18歳に引き下げられたのをうけて、斎藤美奈子の書いた、政治の入門書、とでもいっておけばいいだろうか。さっそく買って読んでみたのだが、はっきり言ってがっかりした、というのが正直なところ。もうちょっと深みのある議論ができないものか。

しかし、まあ、せいぜいほめてみることにする。

内容としては、そんなに目新しいことが書いてあるわけではない。いわゆる五五年体制の成立と崩壊から現代にいたるまでの政治のおおきな流れと、現代における政治的諸問題についての解説、と思ってよめばいいかな、というところである。

この本は、基本的に二分法の発想で書いてある。目次をざっとみれば、

第1章 二つの立場:体制派と反体制派
第2章 二つの階級:資本家と労働者
第3章 二つの思想:右翼と左翼
第4章 二つの主体:国家と個人
第5章 二つの陣営:保守とリベラル

このようにきれいに二分法で整理してある。あまりにきれいに整理してあるので、読んでいて、途中、ちょっと強引すぎやしないか、あるいは、はしょりすぎてはいないか、と感じるところが時々ある。とはいえ、現実の政治的判断において、保留ということを認めない以上は、いずれかの立場に立たざるをえない。どちらかの立場に立つしかない。では、読者(あなた)は、どっちにしますか……と、問いかけるものになっている。

高校生あるいは大学教養レベルの知識があれば、充分に読める文章である。だが、それを超えたところで、では、「保守思想とは何か」「立憲主義とはどういう考え方か」というようなことを考えるところまでは及んでいない。それはこの本の守備範囲を超えることになる。「ほんとう」はここのところまで踏み込んで議論しないといけないと思うのだが。

全体を通じておおむね両論併記の立場で記述してあるが、最終的に著者(斎藤美奈子)の立場としては、リベラル・個人・反体制を、自分は選ぶとしてある。このあたり、いつのまにか誘導してあるというよりも、一定のケジメをつけたうえで、自分の立場はこうだと言っているあたりは潔い。

ここで欲をいえば、なぜ反体制でなければならないのか、のあたりの説明に説得力が欠ける気がする。そして、現状の分析(国会でいわゆる改憲発議に必要な三分の二を与党系でしめている状態)が、強引、あるいは、悲観的にすぎはしないか、という気もする。確かに三分の二はとったかもしれないが、同じ方向をむいて三分の二というわけではない。改憲といっても、その中身を議論するのはこれからになる。一つの改憲案にしぼって三分の二の賛成を得るには、非常にハードルが高いと思っているのが、私の判断ではあるのだが。

上記のように、この本は基本的に二分法でものごとを整理してある。しかし、二分法では、どこかで思考停止ということになりかねない。また、二分法では整理できな状況というものもある。このあたりの議論を整理したものとしては、

佐藤健志.『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』.徳間書店.2016
http://www.tokuma.jp/bookinfo/9784198640637

がいいかなと思ったりする。私としては、現在の日本の状況についての分析としては、斎藤美奈子より佐藤健志の方をおしておきたい。本書でしめされているように二分法で対立しているように見える敵対陣営が、実はその水面下で通じるものがある。そして、単なる二分法では整理できない、実際の政治の状況というものがある。このような冷めた分析も必要かと思う次第である。