『憲法サバイバル』森達也・白井聡2017-06-12

2017-06-12 當山日出夫(とうやまひでお)

ちくま新書編集部(編).『憲法サバイバル-「憲法・戦争・天皇」をめぐる四つの対談-』(ちくま新書).筑摩書房.2017
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480069535/

白井聡については、このブログでも以前にとりあげたことがある。

やまもも書斎記 2016年6月25日
白井聡『戦後政治を終わらせる』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/06/25/8118252

この時の私の白井聡についての評価はきわめて低い。「永続敗戦論」というテーマはいいとしても、では、これから我々はどうすべきかとなったときに、精神力で頑張れ、としか言っていない。これは、何も言わないよりもたちが悪いとしかいいようがない。

この対談を読んでも、その印象が好転することはなかった。所詮、言っていることは、毒にも薬にもならないようなことである。

だが、そうはいっても読みながら、いくつか付箋をつけた箇所を見ておきたい。

(森)「象徴天皇制を採用するのであれば、人間宣言するべきではなかった。現人神のままでいれば象徴になり得たわけですが、人間ならば象徴になりえない。しかも戦後の天皇は実は人間以下のです。なぜならば憲法が規定する人権が保障されていない。選挙権もなければ職業や居住地を選択する自由すらない。」(p.174)

(白井)(天皇の退位表明の放送について)「天皇は、象徴の役割を果たすということについての自らの見解を具体的に語った。役割の基本は祈りです。つまりこの国が平安であれという祈りを捧げることと、傷ついた人たちを慰めることですね。」(p.207)

現在の憲法においては、天皇に人権が認められていないことについては、このブログでもすでにふれたことがある。

やまもも書斎記 2016年8月12日
長谷部恭男『憲法と平和を問いなおす』天皇は憲法の飛び地
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/08/12/8150156

もし、「人権」ということを本当に考えるならば、天皇の人権はいかにあるべきか、それとも、特殊に制限されるものなのか、もっとラディカルに考えるべきことになると思っている。

また、象徴天皇の役割を「祈り」とすることは、言われるまでもなく、すでに多くの国民が、自ずと納得していることだろうと思う。でなければ、天皇の被災地訪問などの行為が、歓迎されるはずもない。

また、白井聡は、このようにも言っている。

「私は天皇を論じるときは、明治以降の極めて近代的なシステムとしての天皇制を基本的にはとらえるべきだと思います。これは明治維新をやった革命家たちが、ものすごく人為的・人工的につくったものです。/その一方で、仮に天皇制が単にすごく底の浅い作り物だったとしたら、それがある時期「天皇陛下のために死ぬのは当たり前だ」というとてつもない国民動員装置になったことを説明できない。神道を考える際にも同じことが言えると思います。ここのバランス感覚はなかなか難しいんですね。」(pp.214-215)

この指摘はあたっていると思う。だが、であるならば、これからの天皇制はいかにあるべきか、そこのところをもっと掘り下げて論じるべきではないか。

それは、森達也の言う、

「僕も、メディアの責任は非常に大きいと思います。タブーに抗する存在であるべきメディアの方が、これまでのタブーの濃度を追い越すかたちで、自粛・忖度などといった領域を広げてしまっている。」(pp.211-212)

これをふまえるならば、まず、メディアの側にいる人間……森達也も白井聡も、どちらかといえば、メディアの側の人間だろう……が、責任をもって、これからの天皇のあり方について、きりこんでいくのでなければならない。

なお、この対談が行われたのは、2016年である。その後、今年(2017年)になって、今上天皇の退位をさだめた特例法が成立した。次の天皇は、平成にかわるどのような時代をになっていくことになるのか。自粛も忖度も無い議論がこれから必要になってくるのであろう。

以上、『憲法サバイバル』を4回にわけて、順番に読んでみた。結果として感想をのべれば、一番面白いのは、冨澤暉・伊勢崎賢治の対談、一案くだらないのは、上野千鶴子・佐高信の対談、ということになろうか。憲法改正ということが、具体的な政治課題となろうとしている今、この本は、読んでおく価値のある本だとは思う。九条について、また、象徴天皇制について、考えるべき論点は、まだまだ残されていると思うし、考えていかなければならないことだと思っている。

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