『グッド・バイ』太宰治/新潮文庫2020-12-03

2020-12-03 當山日出夫(とうやまひでお)

グッド・バイ

太宰治.『グッド・バイ』(新潮文庫).新潮社.1972(2008.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/book/100608/

続きである。
やまもも書斎記 2020年11月30日
『ヴィヨンの妻」太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/11/30/9321870

新潮文庫の編集としては、これが太宰治の最後の短篇集ということになる。

ここまで太宰治の作品を、おおむね初期の作品からだいたい順番に読んできて、戦後の短篇集を読んで思うことは……やはり太宰は、戦争に敗北したということを、深くこころに刻んでいるということである。太宰文学における戦後を感じるといってもいいだろう。

おそらく、この当時の文学者で、敗戦ということに何も影響をうけなかった文学者はいないであろう。それぞれに、感じるところ、思うところがあったにちがいない。その中にあって、太宰の戦後の作品は、ひときわ輝くところがあると感じる。

それは、敗戦によって落ちるところまで落ちるという感覚であり、それにもかかわらず生きていくことになる、人間の生命力のようなものといってよいかもしれない。この絶望感と希望との間の絶妙なバランスのうえに、かろうじてなりたっていたのが、太宰の戦後文学作品であるといってよいのではないだろうか。

戦後という時代において太宰治がこの作品を書いたのではない、と思う。逆なのだろう。太宰治が、これらの作品を書くことによって、人びとは、自分の生きている時代を「戦後」と認識することができた、そうとらえるべきなのかと思う。

このことを強く感じさせる作品が、「冬の花火」「春の枯葉」の二つの戯曲である。これらの作品は、太宰治の作品のなかでも屈指の傑作といっていいと思う。

そして、ここにおさめられた短篇を読んで感じるところは、太宰ならではの語り口のたくみさ、特に一人称視点からの語りのうまさである。この文章のうまさは、太宰にとって天性のものとしかいいようがないだろう。

だが、あるいは、この語り口のうまさが、作家として自分自身を追い詰めていくことになってしまったのかもしれないとも思う。

残るは、『斜陽』『人間失格』それから、いくつかの短篇ということになる。続けて読むことにしたいと思う。

2020年11月30日記

追記 2020-12-04
この続きは、
やまもも書斎記 2020年12月4日
『斜陽』太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/12/04/9323253

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