『家族シネマ』柳美里2021-01-29

2021-01-29 當山日出夫(とうやまひでお)

家族シネマ

柳美里.『家族シネマ』.講談社.1997

これは古書で買った。柳美里の芥川賞受賞作である。

『JR上野駅公園口』から、ボチボチと柳美里の小説を読んでいっている。共感できる作品もあるし、今一つよくわからないといった作品もある。が、ともあれ、その出発点になるはずの芥川賞の作品を読んでみることにした。

柳美里は、家族を描いている作家である。だが、その家族は、どことなくいびつな、あるいは、壊れてしまったといってもいいかもしれない、家族の物語である。(このあたり、昨年末から読んできた、向田邦子のエッセイに描かれる昭和の家庭の雰囲気と、かなり異なる印象をうける。)

そして、『家族シネマ』では、その家族を、さらに外側の視点が見ている。小説を読んで、このところはよく分からないところなのだが、どうも映画の撮影ということで、家族が描かれている。

芥川賞だから、そう長い小説ではない。ほぼ一気に読んでしまった。読後感としては、不思議な感じがする。確かに現代社会における、ある意味での家族のあり方というものを描いているのであろうことは、理解できる。だが、なんとなくおちつかない。ふと突然に終わってしまうという印象で終わりになる。

この作品が芥川賞をとったことについては、納得はする。芥川賞が多くそうであるように、この作品もまた、その完成度というよりも、その後の可能性にかけた受賞と理解していいのだろう。

2021年1月28日記