『大名倒産』(下)浅田次郎/文春文庫 ― 2022-09-24
2022年9月24日 當山日出夫
浅田次郎.『大名倒産』(下)(文春文庫).文藝春秋.2022(文藝春秋.2019)
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167919290
上巻につづけて読んだ。上下巻をほぼ一息で読んだ。
やまもも書斎記 2022年9月23日
『大名倒産』(上)浅田次郎/文春文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2022/09/23/9527972
浅田次郎の小説については、一般に好き嫌いがいくぶんあるかと思われる。はっきりいって、「蒼穹の昴」シリーズは、巻をおうごとにつまらなくなっていったと感じる。これは、浅田次郎の描こうとしている人間の実直さ、愚直さへの共感というものが、史実の近代中国史を舞台にしては、空回りしてしまったということだと思う。(近代中国史については、浅田次郎の小説よりも「映像の世紀」の方が面白い。)
だが、この『大名倒産』についていえば、それがうまく合致して非常にすぐれたエンタテイメントになっている。時代設定としての幕末。徳川二六〇年のなれのはての武家社会である。そこに生きる武士たち、その愚直ともいえる、武士としての生き方が、時にコミカルに、時に哀愁をこめて、描かれる。これが、実に面白い。
また、現代の読者は、史実として徳川の終わりを知っている。明治の「御一新」である。さて、この小説の登場人物たちの苦労は、その後どうなってしまうのか、その先が分かっているからこそ、登場人物たちがおかしくもいとおしく思える。
浅田次郎の小説の特徴は、人間の愚直さと、幻想性にあると、思っている。この小説も、まさに幻想的な場面が設定されている。そして、それが、まさに幕末から御一新というある種の亡びと接しているからこそ、美しく切ないものになっている。
面白いのは、貧乏神のみならず、死神や、さらに七福神の神々が登場するあたりかもしれない。これらの神様たちが、人間味たっぷりで面白い。荒唐無稽な小説ならではの神様たちの登場と活躍となっている。
ところで、はたして、江戸時代から明治にいたるとき、幕府や諸藩は、どのように財政運営をしていたのか。明治政府の財政基盤はどのようなものであったのか。これはこれとして、歴史学としてとても興味のあるところである。この小説のどこまでが史実に即したところで、どこからがフィクションになるのか、ちょっと考えてみたくなるところもある。
2022年9月7日記
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167919290
上巻につづけて読んだ。上下巻をほぼ一息で読んだ。
やまもも書斎記 2022年9月23日
『大名倒産』(上)浅田次郎/文春文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2022/09/23/9527972
浅田次郎の小説については、一般に好き嫌いがいくぶんあるかと思われる。はっきりいって、「蒼穹の昴」シリーズは、巻をおうごとにつまらなくなっていったと感じる。これは、浅田次郎の描こうとしている人間の実直さ、愚直さへの共感というものが、史実の近代中国史を舞台にしては、空回りしてしまったということだと思う。(近代中国史については、浅田次郎の小説よりも「映像の世紀」の方が面白い。)
だが、この『大名倒産』についていえば、それがうまく合致して非常にすぐれたエンタテイメントになっている。時代設定としての幕末。徳川二六〇年のなれのはての武家社会である。そこに生きる武士たち、その愚直ともいえる、武士としての生き方が、時にコミカルに、時に哀愁をこめて、描かれる。これが、実に面白い。
また、現代の読者は、史実として徳川の終わりを知っている。明治の「御一新」である。さて、この小説の登場人物たちの苦労は、その後どうなってしまうのか、その先が分かっているからこそ、登場人物たちがおかしくもいとおしく思える。
浅田次郎の小説の特徴は、人間の愚直さと、幻想性にあると、思っている。この小説も、まさに幻想的な場面が設定されている。そして、それが、まさに幕末から御一新というある種の亡びと接しているからこそ、美しく切ないものになっている。
面白いのは、貧乏神のみならず、死神や、さらに七福神の神々が登場するあたりかもしれない。これらの神様たちが、人間味たっぷりで面白い。荒唐無稽な小説ならではの神様たちの登場と活躍となっている。
ところで、はたして、江戸時代から明治にいたるとき、幕府や諸藩は、どのように財政運営をしていたのか。明治政府の財政基盤はどのようなものであったのか。これはこれとして、歴史学としてとても興味のあるところである。この小説のどこまでが史実に即したところで、どこからがフィクションになるのか、ちょっと考えてみたくなるところもある。
2022年9月7日記
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