NHK「蔵」2023-05-08

2023年5月8日 當山日出夫

NHK「蔵」

三回の放送。それぞれ録画しておいて翌日にゆっくりと見た。

原作は読んでいる。何年か前になるが、宮尾登美子の作品の主なものを読みかえしてみたくなって、『櫂』からはじめてかなり読んだことがある。今手に入るもの全部を読んだということではないが。

宮尾登美子は好きな作家である。その描く世界は、一昔前の古風な社会、制度、人間のことが多い。その理不尽ともいえる(今日の目から見ればであるが)の中で、それでも一途に生きている人間の姿を描いている。

『蔵』もそういった作品の一つである。

NHKのドラマを見て思うことは、いつくかある。

まず思うことは、原作の小説よりも格段に台詞が分かりやすいことである。原作の小説は、越後方言を忠実に文字にしている。そのせいもあって、文字としてわかっても、ことばとしてわかりにくいところがかなりある。しかも、この小説は、会話文が非常に多い。読むと、分かりにくいながらも越後方言のことばのリズムにひたって読んでいくことになる。このあたりは、やはり宮尾登美子の作家としての腕である。

しかし、ドラマは、耳で聴いてわかるようにアレンジしてある。原作の小説の中の台詞よりも格段に分かりやすい。「はなしことば」とは本来耳で聴いてわかるものなのである。(しかし、まあ、実際には字幕で文字が出るようにして見ているので、そのこともあるかとは思うが。)

それから、たまたまであると思うのだが、朝ドラの『らんまん』が土佐の蔵元の話になっている。蔵元とはどういうもので、そこに季節になると、杜氏と蔵人がやってきて働く。酒が出来ると、故郷に帰っていく。また、次のシーズンになるとやってくる。このあたりのシステムとか、あるいは、実際の酒造りのプロセスとか、朝ドラでも描いてはいるのだが、この『蔵』を見ると、このあたりの事情が非常によくわかる。(場所は、土佐と越後で違っているのだが、酒造りの基本は同じであると思う。少なくともドラマでは、そのように描いている。)

ところで、そんなにはっきりと原作の小説を記憶しているということはないのだが、最後のところは作り変えてある。確か、小説では、主人公の烈が亡くなるところまで描いてあったように記憶している。原作は、決してハッピーエンドにはなっていなかったはずである。

また、細かには憶えていないけれども、人間関係についてもいくぶん改編してあるようにも思える。はたしてどうなのか。ここで原作の小説を取り出してきて、再度読みなおして確認しようという気はおこらないのだが。原作の小説では、さらに不可解な人間関係の深みのようなものが描かれていたと思う。さて、どうだったろうか。

概して宮尾登美子の小説、そして、その映像化には、ある種のけれんみがある。このドラマは、押さえてはあるのだが、ところどころにけれんみが感じられる。

特に、音楽がいい。深草アキの音楽がよかった。

2023年5月6日記