『神田神保町書肆街考』鹿島茂/ちくま文庫 ― 2022-11-04
2022年11月4日 當山日出夫
鹿島茂.『神田神保町書肆街考』(ちくま文庫).筑摩書房.2022(筑摩書房.2017)
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480438317/
私が神保町にはじめて行ったのは、東京の大学を受験したときだった。そのときは、ただ通っただけだった。その後、慶應義塾大学文学部に入学して、本を買うために神保町に行くようになった。
まだ憶えているのは、三省堂の昔の建物。取り壊しになったビルではなく、その前の昔の建物である。ランチョンも、ビルになる前の店を記憶している。それから、九段の方に歩いて山本書店。これも今はビルになっているが、昔の古いの店舗には何度か行ったものである。
その他、自分の専門(国語学)の本を買うためには、八木書店とか、日本書房とか、西秋書店とか、よく行った。
何年か間のことになる、東京に行って神保町でちょっと時間をつぶす必要があって、靖国通りのスターバックスの二階の窓際の席で、向かいの古書店街の風景を、なんとなく見てすごしたことがある。スターバックスは、私の学生のころには無かったのは無論であるが、そこから見る古書店街の風景は、基本的に昔のままの印象であった。
この本の解説を書いているのは、仲俣暁生。この本についての優れた解説となっている。本の街の神保町の歴史であり、それは、日本の近代以降の学問と教育の歴史であり、とりもなおさず、近代日本の歴史につながるものである。神保町という街の歴史を語りながら、その地に集まった、多くの学校……東京大学、東京外国語大学、明治大学、専修大学、中央大学……など。さらには、多くの中国人留学生の集まる街でもあった。さらには、映画、演劇のことにまで話題はひろがっていく。
私の記憶にある範囲で、この本が取り上げていないテーマとしては、神保町は喫茶点の街でもある。お茶の水あたりには、昔、名曲喫茶などがあった。また、近年は、カレーの街としても名高いものになっている。それから、山の上ホテルのことについても言及があると良かったと思える(これは、あえて省いたのだろうか。)また、岩波ホールのことについても書いていない。(これも今年無くなってしまったが、私にとって神保町は、岩波ホールのある街でもあった。)
読み物として、そして、通史として面白く書いてある。これが、一般の学術書であれば、参考文献として脚注ですますようなことでも、丁寧にその本が引用してある。たとえば、反町茂雄の本などかなりの引用がある。(反町茂雄の本は、以前に読んだものであるが、再度、神保町の近代史として読みなおしてみたい気になっている。)豊富な資料の引用によって、通読してなるほどと理解の及ぶところが多々ある。
近代の学校や、学校をとりまく様々な歴史、出版史、書物史、古書店史といった方面に関心のある向きには、非常に面白く読める本であることはたしかである。ただ、もとの本を文庫一冊にしてあるので、今の通常の文庫本としては、字が小さい。かなり老眼になっている私としては、ちょっと読むのに苦労するところがあった。
東京を離れてかなりになる。神保町からも遠のいている。このところ、本は、古書をふくめて、オンライン書店で買うことが多くなった。しかし、神保町の、その分野の専門の古書店の棚は、おそらく、そこいらへんの大学の図書館よりも充実しているといっていいだろう。専門の勉強をしようとしている、若い学生などは、神保町に足を運ぶ価値はまだあるはずである。
と書いたところで、最近の出来事としては、国立国会図書館のことがある。絶版本などのオンライン送信もあるし、さらには、その全文検索サービスもある。これが、この十一月からは、古典籍にも拡大された。次世代デジタルライブラリーの実現である。本を自分のもとに蔵書として持つ意味が、大きく変わろうとしている。これからの、インターネットと、デジタルの時代において、古書店や書物というものの持つ意味が根本的に変わっていくだろうか。その時代の流れのなかにあって、私自身としては、昔ながらに紙の本を読む生活を続けていきたいと思っている。
2022年11月3日記
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480438317/
私が神保町にはじめて行ったのは、東京の大学を受験したときだった。そのときは、ただ通っただけだった。その後、慶應義塾大学文学部に入学して、本を買うために神保町に行くようになった。
まだ憶えているのは、三省堂の昔の建物。取り壊しになったビルではなく、その前の昔の建物である。ランチョンも、ビルになる前の店を記憶している。それから、九段の方に歩いて山本書店。これも今はビルになっているが、昔の古いの店舗には何度か行ったものである。
その他、自分の専門(国語学)の本を買うためには、八木書店とか、日本書房とか、西秋書店とか、よく行った。
何年か間のことになる、東京に行って神保町でちょっと時間をつぶす必要があって、靖国通りのスターバックスの二階の窓際の席で、向かいの古書店街の風景を、なんとなく見てすごしたことがある。スターバックスは、私の学生のころには無かったのは無論であるが、そこから見る古書店街の風景は、基本的に昔のままの印象であった。
この本の解説を書いているのは、仲俣暁生。この本についての優れた解説となっている。本の街の神保町の歴史であり、それは、日本の近代以降の学問と教育の歴史であり、とりもなおさず、近代日本の歴史につながるものである。神保町という街の歴史を語りながら、その地に集まった、多くの学校……東京大学、東京外国語大学、明治大学、専修大学、中央大学……など。さらには、多くの中国人留学生の集まる街でもあった。さらには、映画、演劇のことにまで話題はひろがっていく。
私の記憶にある範囲で、この本が取り上げていないテーマとしては、神保町は喫茶点の街でもある。お茶の水あたりには、昔、名曲喫茶などがあった。また、近年は、カレーの街としても名高いものになっている。それから、山の上ホテルのことについても言及があると良かったと思える(これは、あえて省いたのだろうか。)また、岩波ホールのことについても書いていない。(これも今年無くなってしまったが、私にとって神保町は、岩波ホールのある街でもあった。)
読み物として、そして、通史として面白く書いてある。これが、一般の学術書であれば、参考文献として脚注ですますようなことでも、丁寧にその本が引用してある。たとえば、反町茂雄の本などかなりの引用がある。(反町茂雄の本は、以前に読んだものであるが、再度、神保町の近代史として読みなおしてみたい気になっている。)豊富な資料の引用によって、通読してなるほどと理解の及ぶところが多々ある。
近代の学校や、学校をとりまく様々な歴史、出版史、書物史、古書店史といった方面に関心のある向きには、非常に面白く読める本であることはたしかである。ただ、もとの本を文庫一冊にしてあるので、今の通常の文庫本としては、字が小さい。かなり老眼になっている私としては、ちょっと読むのに苦労するところがあった。
東京を離れてかなりになる。神保町からも遠のいている。このところ、本は、古書をふくめて、オンライン書店で買うことが多くなった。しかし、神保町の、その分野の専門の古書店の棚は、おそらく、そこいらへんの大学の図書館よりも充実しているといっていいだろう。専門の勉強をしようとしている、若い学生などは、神保町に足を運ぶ価値はまだあるはずである。
と書いたところで、最近の出来事としては、国立国会図書館のことがある。絶版本などのオンライン送信もあるし、さらには、その全文検索サービスもある。これが、この十一月からは、古典籍にも拡大された。次世代デジタルライブラリーの実現である。本を自分のもとに蔵書として持つ意味が、大きく変わろうとしている。これからの、インターネットと、デジタルの時代において、古書店や書物というものの持つ意味が根本的に変わっていくだろうか。その時代の流れのなかにあって、私自身としては、昔ながらに紙の本を読む生活を続けていきたいと思っている。
2022年11月3日記
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