NHKスペシャル「トランプとプーチン “ディール”の深層」 ― 2025-02-26
2025年2月26日 當山日出夫
NHKスペシャル トランプとプーチン “ディール”の深層
見ながら思ったことなど、いろいろ書いてみる。
前半は、ウクライナの停戦をめぐるアメリカとロシアのこれまでとこれから。最近のニュースを見ていて感じるところと、そう大きな違いがあるわけではない。
思うこととしては、アメリカがトップである大統領の自由になる国になった、これはこれまでも逆の方向でそうだったことになるのだろうと思うが、トランプ大統領になって、前政権との違いがはっきりするだけに、その部分が目立つ。民主的な意志決定のシステムや、官僚制というのは、政権のトップにブレーキをかける意味がある、というのが私の理解なのだが、世界の動きとしては、全体としてはかならずしもこういう方向にはむかっていない。
このような文脈ではあまり事例として出ないが、韓国の大統領なども、非常に大きな権限をもっていること、それ自体が問題である……このことは指摘されることもあるが、今の韓国情勢については、いわゆるリベラル側の見方としては、現在の野党勢力に味方するけれども、大統領の権限や制度そのものについての問題は避けているようである。
アメリカ、ロシア、それから、中国などの問題だけではなく、国家の意思決定のシステムがこれからどうなっていくのか、という大局的な観点から、冷静な議論が必要なところかと思う。
後半は、小泉悠の専門領域。ロシアの軍事についてであった。ウクライナでの戦争がはじまったころ、ロシアの軍事の専門家として、小泉悠が登場してきたことになるのだが、そのころは、自分は軍事のことしかわからないので、政治や外交や経済のことには言及しない、という姿勢でいたのだが、このごろでは、発言の範囲が広くなってきている。軍事を軍事だけのこととしては、論じることはできない、これは当然のことだろう。国際政治や、経済などの専門家と、どれだけ、専門的知見として意見を交換し合えるのか、ということになるだろう。専門家としての研究者の領分と、政治家としての判断の領分、これは分けて考えるべきと、私は思っている。
将来、いや、近未来の危惧としては、極東におけるロシアの軍事的存在の高まりになる。これまで、台湾有事を想定して、対中国ということを考えていればよかったかもしれない。この場合、北海道などの自衛隊をいかにすばやく南西諸島に振り向けることができるか、ということが課題であったはずである。それが、ロシアが出てくると、そう簡単に北海道の部隊を動かすことはできなくなる。ロシアに、積極的に日本に侵攻しようという意図がなくても、北海道の自衛隊を動けなくするだけで、十分に中国に対して協力したことになる……ここまでは、番組のなかでは言っていなかったが、話しを総合してみれば、こういうことになるのだろう。
グリーンランドをめぐるトランプ大統領の発言は、過激ではあったかもしれないが、突飛な発想とは思わない。北極海の覇権をめぐって、ロシアとNATO、アメリカ、それから、日本がかかわることになれば、グリーンランドは戦略的な要衝であることは、地図を見ればあきらかなことである。(このニュースで、私が気になったことは、トランプ大統領の発言に対して、デンマークの首相は、否定しなかったことである。まず言ったのは、それはグリーンランド自体が決めることである、と言っていた。グリーンランドにアメリカが戦略的な意味を見出して存在感を高めようとしていること、これ自体は、織り込み済みのことだったと理解するのだが、どうだろうか。)
ウクライナについては、屈辱的な停戦に合意するか、さもなくば、泥沼の戦争を継続するか、という選択肢しかない。これが、現時点では最も冷静なものの見方ということになるだろう。
ロシアを相手に全面戦争は避けたい、第三次世界大戦への拡大は望まない、これはNATOやアメリカの一致した考え方だったろうと思うが、これが結果的に、戦力の逐次的投入ということになり、ロシアとの戦線の膠着を打破できないでいる、ということもある。
それから、ニュースではあまり言及されないが、アメリカとロシアの会談の場所として、サウジアラビアになったというのは、どういう理由になるのだろうか。イスラエル、パレスチナの問題でも、サウジアラビアの存在感は大きくなっている。さらにいえば、日本とイギリスとイタリアで開発する予定の戦闘機に、サウジアラビアも参加という方向らしい。さて、今の、国際情勢のなかで、この国はどう考えるべきなのか、専門家の解説を聞きたいところである。
私の思っていることとしては、これまでにも、何回か書いてきたかと思うが、現実的な実利については、交渉や妥協は不可能ではない。端的に言いかえれば、金銭で考えることなら、交渉が可能である。しかし、理念や観念は、妥協することができない。ウクライナがロシアのものである(ロシアの言い分になるが)、いや、ウクライナはウクライナのものである、このような観念的な対立には、妥協点がない。また、これまでにこの戦争で亡くなった兵士は無駄死にだったのか、という感情も、妥協することはできない。
このあたりのことは、今はまだ日本が直接の当事者ではないということもあるが、客観的に見ることのできることになる。だからといって、武力を背景に恫喝したり、軍事的に侵略したりして、ということが正当化されることはないけれど。
2025年2月24日記
NHKスペシャル トランプとプーチン “ディール”の深層
見ながら思ったことなど、いろいろ書いてみる。
前半は、ウクライナの停戦をめぐるアメリカとロシアのこれまでとこれから。最近のニュースを見ていて感じるところと、そう大きな違いがあるわけではない。
思うこととしては、アメリカがトップである大統領の自由になる国になった、これはこれまでも逆の方向でそうだったことになるのだろうと思うが、トランプ大統領になって、前政権との違いがはっきりするだけに、その部分が目立つ。民主的な意志決定のシステムや、官僚制というのは、政権のトップにブレーキをかける意味がある、というのが私の理解なのだが、世界の動きとしては、全体としてはかならずしもこういう方向にはむかっていない。
このような文脈ではあまり事例として出ないが、韓国の大統領なども、非常に大きな権限をもっていること、それ自体が問題である……このことは指摘されることもあるが、今の韓国情勢については、いわゆるリベラル側の見方としては、現在の野党勢力に味方するけれども、大統領の権限や制度そのものについての問題は避けているようである。
アメリカ、ロシア、それから、中国などの問題だけではなく、国家の意思決定のシステムがこれからどうなっていくのか、という大局的な観点から、冷静な議論が必要なところかと思う。
後半は、小泉悠の専門領域。ロシアの軍事についてであった。ウクライナでの戦争がはじまったころ、ロシアの軍事の専門家として、小泉悠が登場してきたことになるのだが、そのころは、自分は軍事のことしかわからないので、政治や外交や経済のことには言及しない、という姿勢でいたのだが、このごろでは、発言の範囲が広くなってきている。軍事を軍事だけのこととしては、論じることはできない、これは当然のことだろう。国際政治や、経済などの専門家と、どれだけ、専門的知見として意見を交換し合えるのか、ということになるだろう。専門家としての研究者の領分と、政治家としての判断の領分、これは分けて考えるべきと、私は思っている。
将来、いや、近未来の危惧としては、極東におけるロシアの軍事的存在の高まりになる。これまで、台湾有事を想定して、対中国ということを考えていればよかったかもしれない。この場合、北海道などの自衛隊をいかにすばやく南西諸島に振り向けることができるか、ということが課題であったはずである。それが、ロシアが出てくると、そう簡単に北海道の部隊を動かすことはできなくなる。ロシアに、積極的に日本に侵攻しようという意図がなくても、北海道の自衛隊を動けなくするだけで、十分に中国に対して協力したことになる……ここまでは、番組のなかでは言っていなかったが、話しを総合してみれば、こういうことになるのだろう。
グリーンランドをめぐるトランプ大統領の発言は、過激ではあったかもしれないが、突飛な発想とは思わない。北極海の覇権をめぐって、ロシアとNATO、アメリカ、それから、日本がかかわることになれば、グリーンランドは戦略的な要衝であることは、地図を見ればあきらかなことである。(このニュースで、私が気になったことは、トランプ大統領の発言に対して、デンマークの首相は、否定しなかったことである。まず言ったのは、それはグリーンランド自体が決めることである、と言っていた。グリーンランドにアメリカが戦略的な意味を見出して存在感を高めようとしていること、これ自体は、織り込み済みのことだったと理解するのだが、どうだろうか。)
ウクライナについては、屈辱的な停戦に合意するか、さもなくば、泥沼の戦争を継続するか、という選択肢しかない。これが、現時点では最も冷静なものの見方ということになるだろう。
ロシアを相手に全面戦争は避けたい、第三次世界大戦への拡大は望まない、これはNATOやアメリカの一致した考え方だったろうと思うが、これが結果的に、戦力の逐次的投入ということになり、ロシアとの戦線の膠着を打破できないでいる、ということもある。
それから、ニュースではあまり言及されないが、アメリカとロシアの会談の場所として、サウジアラビアになったというのは、どういう理由になるのだろうか。イスラエル、パレスチナの問題でも、サウジアラビアの存在感は大きくなっている。さらにいえば、日本とイギリスとイタリアで開発する予定の戦闘機に、サウジアラビアも参加という方向らしい。さて、今の、国際情勢のなかで、この国はどう考えるべきなのか、専門家の解説を聞きたいところである。
私の思っていることとしては、これまでにも、何回か書いてきたかと思うが、現実的な実利については、交渉や妥協は不可能ではない。端的に言いかえれば、金銭で考えることなら、交渉が可能である。しかし、理念や観念は、妥協することができない。ウクライナがロシアのものである(ロシアの言い分になるが)、いや、ウクライナはウクライナのものである、このような観念的な対立には、妥協点がない。また、これまでにこの戦争で亡くなった兵士は無駄死にだったのか、という感情も、妥協することはできない。
このあたりのことは、今はまだ日本が直接の当事者ではないということもあるが、客観的に見ることのできることになる。だからといって、武力を背景に恫喝したり、軍事的に侵略したりして、ということが正当化されることはないけれど。
2025年2月24日記
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