「映像記録 東京裁判」2024-04-04

2024年4月4日 當山日出夫

映像の世紀バタフライエフェクト 映像記録 東京裁判

小林正樹監督の映画「東京裁判」は見た。そのころ東京に住んでいた。映画館に行ったのを憶えている。

「映像の世紀」として東京裁判をとりあげるとなると、私の世代では、どうしても映画で見たことを思い出してしまう。私が映画を見て最も印象に残っているシーンは、絞首刑判決を聞かされたときの広田弘毅の姿であった。ちらりと傍聴席を見上げたときのことが、深くこころに残っている。そこには、娘たちが傍聴にきていたはずである。映画を見たとき一番印象に残ったシーンであったが、「映像の世紀」でもこの場面を大きくとりつかっていた。

東京裁判を、今の時代に「映像の世紀」として取りあげる意味はいったいどこにあるのだろうか、という気がしていた。東京裁判については、特に、新しい映像資料があるというものではない。

たしかに、その解釈や歴史的意義をめぐっては、今日まで様々に議論のある裁判である。

強いて私なりに思うことを書いてみるならば、次のようになるだろうか。

第一には、昭和天皇の責任を問うことがなかったことである。歴史学の立場からするならば、昭和天皇に「ベトー」(否)ということはできなかったというのが、常識的な見解だろう。とはいえ、政治的、法的に責任がないことと、そのまま天皇の地位にいつづけることとは、また違うとも、どうしても思えてならない。もし、昭和天皇が退位ということでけじめをつけることがあったとしたら、その後の日本の政治はまた変わったものになっただろうと思う。(ただ、私は、現在の象徴天皇制を否定するものではない。このような形で天皇制を受け継ぐことは、結果的には良かったことであると思っている。もし、天皇制を廃止するということになったなら、おそらく元天皇、皇族という人たちの処遇についてどうするのがいいのか、非常に深刻な問題をかかえこむことになったにちがいない。極端な場合、天皇制復活をとなえるウルトラナショナリズムの再来ということもあり得たかと思うが、これは考えすぎだろうか。)

第二には、いわゆる東京裁判史観というものをめぐる議論である。いまだに東京裁判を不当であると考える人もいる。一方、東京裁判を受け入れることによって、戦後の民主的な政治制度が確立したと、肯定的に考える人もいる。私としては、それが勝者が敗者を裁くという歪んだものであったにせよ、しかし、それを否定してしまっては、建設的な議論にはならないと考える。強いていえば、そのような形を受け入れることによってしか、日本の歩むべき道はないと考えるということになるであろうか。東京裁判の結果としてもたらされた戦後民主主義が「虚妄」であるとしても、それにかけるしかない。

ざっと以上のようなことを考えてみる。

少なくとも、東京裁判をめぐっては、さまざまに議論があるべきだとは思っている。

ところで、「映像の世紀」としての番組の新しさとしては、ドイツでのニュルンベルク裁判と比較していたことである。これはどうかなと思うところがある。そもそも、ナチスのドイツと、戦前の日本では、政治の統治のシステムが大きくことなる。特に、天皇制のもとにおける政治の責任については、考えるべきところが多い。

戦争犯罪は、抽象的な国家ではなく、その指導者の個人の責任である、という法理は現在どれほど一般的になっているのだろうか。このところについて、現在の法律、政治についての見解がどうであるのか、言及があるとよかったと思う。

そして、戦争犯罪のその後の事例として、ベトナム戦争を示すのは、どうなのだろうか。といって、今のパレスチナの様子で示すべきだとは思わないけれど。このあたりの判断は、番組の制作としてかなり考えたうえでのことかもしれない。

余計なことかもしれないが、東京裁判史観というものを肯定的に考えるとしても、歴史の「もしも」として、あの時代、アメリカがどのような外交をしていれば、太平洋戦争を防ぐことができただろうかと考えてみることも、意味のないことではないと思っている。一面的に、日本の侵略主義を悪として断罪するだけでは、歴史から学ぶものは少ないだろう。

2024年4月2日記

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
このブログの名称の平仮名4文字を記入してください。

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://yamamomo.asablo.jp/blog/2024/04/04/9673013/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。