『有島武郎』荒木優太2020-10-19

2020-10-19 當山日出夫(とうやまひでお)

有島武郎

荒木優太.『有島武郎-地人論の最果てへ-』(岩波新書).岩波書店.2020
https://www.iwanami.co.jp/book/b527923.html

有島武郎は、いまではもうはやらない作家なのかもしれない。私が若いとき、その作品のいくつか、「一房の葡萄」などは読んだ記憶があるのだが、その後、手にすることなく今にいたっている。オンライン書店など見てみても、そう多くの作品が今でも刊行されているということではないようだ。

この『有島武郎』を読んで感じたこととしては、もっと分かりやすく書けなかったのかな、あるいは、意図的にこのように書いているのか、ということである。

タイトルは「有島武郎」であるが、その評伝というのでもない。むしろ、文学研究のあり方としては、有島武郎論といった感じがある。有島武郎の作品にそうなじみがあるというわけではない私の場合、はっきりいってちょっととりつきにくいところのあった本である。

しかし、たぶん、この本はそのように書いているのだろうとは思う。著者(荒木優太)は、もっと分かりやすい平易な文章を書こうとおもえば書ける人であることは知っている。

有島武郎の入門的な解説本と思って読むと、期待外れのところがある。しかし、文学研究としての有島論としては、なるほどそのような見方で、有島を論じることができるのかと、いろいろ示唆に富む本になっている。

ただ、有島論として論じるならば、もうすこし、日本の同時代の時代的背景への言及があってもよかったのかもしれない。あるいは、近代文学史のなかで、どのような位置づけなのか、解説的な記述があってもよかったろう。

近代文学研究をこころざすような若い人にとっては、貴重な刺激となる本である。

2020年10月18日記